「レベル4〜5」のコネクテッドされた自動運転車には、どのような装備や半導体が必要になるだろうか?(図2)。
まず、クルマの周囲の状況を認識するために、ミリ波レーダーや赤外線レーダーなどを複数搭載することになる。また、CMOSイメージセンサーを内蔵したカメラを10個程度、クルマの外周部に設置する。コンシューマー向けのCMOSイメージセンサーではソニーが世界シェア1位であるが、車載など産業用のCMOSイメージセンサーでは米ON Semiconductorがトップシェアである。
それから、現在のクルマにも100個程度のマイコンが搭載されているが、「レベル4〜5」のコネクテッドカーでは、その数がもっと増えるかもしれない。そのマイコンのIP(Intellectual Property)はArmがスタンダードとなっており、それを基にオランダNXP Semiconductors、ドイツInfineon Technologies、ルネサスなどがマイコンを設計し、製造している。
そして、GPSから位置情報を入手したり、ホストコンピュータから最新の地図情報をダウンロードしたりするために、5G(第5世代移動通信)用通信半導体が必要不可欠になる。現在、5G通信を行う半導体を設計できるのは、Huawei傘下のHiSiliconと米Qualcommの2社しかない。その5G用通信半導体を最先端の7nmプロセスで製造できるのは、TSMC1社だけである。
さらに、位置情報、地図情報、各種センサーからの膨大な情報を基にして、瞬時に、走る、曲がる、止まることを判断するディープラーニング機能を強化した人工知能(AI)が必要となる。AI自体は一種のソフトウェアであるため、以下ではAI(OS)と呼ぶことにする。従って、このAI(OS)が動作するためのAI半導体が必要不可欠になる。
一時期は、AI半導体として、米NVIDIAのGPUをベースとした“DRIVE PX”というモジュールを使うクルマメーカーが多かった。しかし、最近は、Google、Tesla、Appleなどが、自前でAI半導体を設計している。それらは、TSMCの先端プロセスを使って製造されている。
PCでは、Microsoft(マイクロソフト)のWindowsとIntel(インテル)のプロセッサが市場を独占した。そして、この両者は、“ウインテル(Wintel)連合”と呼ばれた。しかし、AI(OS)とAI半導体については、どこがデファクト・スタンダードになるかは、まだ決まっていない。その勝負は、始まったばかりである。
ただし、どこのAI(OS)とAI半導体が主流になったとしても、高速DRAMとSSD(つまりNAND型フラッシュメモリ)が大量に必要になるのは間違いないだろう。
以前どこかのシンポジウムで、NVIDIAとAudiが自動運転システムを構築しているという発表を聞いた。その記憶を基に、筆者が理解している完全自動運転システムの概要を説明する(図3)。
【1】 十分にラーニングしたAI(OS)およびAI半導体を搭載した自動運転車を市場に投入する。
【2】クルマのスイッチがONになった瞬間に、AI(OS)が起動し、5G通信によりコネクテッドされる。そして、GPSから位置情報を入手し、ホストコンピュータから最新の地図情報をダウンロードする。また、AI(OS)も最新版にアップデートされる。
【3】このような自動運転車が1万台販売されているとする。各クルマは、常に5Gでコネクテッドされており、GPSから位置情報を入手している。
【4】そして、1台1台のクルマが自動運転走行しながら、各クルマのAI(OS)がディープラーニングを行い、より安全で賢いAI(OS)に進化し続ける。
【5】しかし、各クルマのラーニングにはバラツキがある。そこで、1万台のクルマのラーニング結果を5G通信によりホストコンピュータに集約する。
【6】ホストコンピュータでは、集約したラーニング情報を基に、AI(OS)を最新版にアップデートし、それを1万台全てに5G通信で配信する。
このように、各クルマに搭載されたAI(OS)はエッジAIとして機能し進化するが、ホストコンピュータにおいても中央集権的なAIが常に最新のAI(OS)にアップデートし、各クルマにそれを配信する。そして、完全自動運転車が売れれば売れるほど、そのクルマが走行すればするほど、ラーニング結果が集積され、より安全で賢い自動運転走行を行えるようになるわけだ。
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