「レベル4〜5」の完全自動運転車には、最先端プロセスで製造されたAI半導体と5G用通信半導体が必要不可欠になる。それに加えて、AI(OS)や各種データをストレージするための大容量SSDと、AI半導体が動作するためのワーキングメモリとして高速大容量のDRAMが必要になる。
2019年12月11日〜13日に開催された「SEMICON Japan」のテクノロジーシンポジウムで、米Micron Technology(以下、Micron)は、レベル2の自動運転車に対して、レベル4〜5の自動運転車では、DRAM搭載容量は10倍、NAND(つまりSSD)は100〜150倍になると発表したそうである(参照:日経クロステック:服部毅、テクノ大喜利、2019年12月17日、脚注1)。
では、実際にそれはどのくらいの容量になるのか?
米調査会社のGartnerによると、自動運転化されたコネクテッドカー1台当たりのデータトラフィック量は、年間280PB(ペタバイト)を超えるという(参照:自動運転ラボ、2019年11月13日)。1日当たりに換算すると約767TB、1時間当たりで約32TB、1分間当り約533GB、1秒当たり8.8GBということになる。
筆者は、巨大なAI(OS)を格納し、最新の地図情報や各種データをストレージするためには、100TBくらいのSSDが必要なのではないかと予想している。
そして、このような膨大なデータを高速処理するために、Micronは、データ通信速度を一気に高めたGDDR6という規格のDRAMを開発している(MicronのWebサイト)。
DDRとは、Double Data Rateの略で、DDR2はDDRの2倍の転送速度を持つDRAMである(図4)。同様に、DDR3はDDR2の2倍、現在主流のDDR4はDDR3の2倍の転送速度を持つ。マイクロンが開発しているというGDDR6は、DDR5を一気に飛び越えて、DDR4の4倍の転送速度を持つDRAMということになる。
そして、さまざまな情報を考慮すると、「レベル4〜5」の自動運転車には、 GDDR6を70〜80 GB搭載すると推定される。現在、最も集積度の高いDRAMは8GBであるが、DRAMeXchangeのWebサイトをみると、8GBは1GBを8枚スタックしたものであることが分かる。
従って、「レベル4〜5」の自動運転車にGDDR6が80GB必要と仮定すると、現在のところ1GBのDRAMが80個必要ということになる。「レベル4〜5」の自動運転車が、いつ頃、どのくらい普及していくか筆者には分からないが、仮に1000万台なら1GBのDRAMが8億個、3000万台なら24億個必要という計算になる。それは、DRAM市場にとって、どのくらいのインパクトをもたらすだろうか?
DRAMの出荷額と出荷個数の推移を図5に示す。DRAM出荷額は、激しく上下動していることが分かる。例えば、Windows95が発売された1995年に大きなピークがあり、2000年のITバブルの際もピークが見られる。また、2008年に起きたリーマン・ショック後に大きく落ち込み、最近では“スーパーサイクル”と呼ばれた2017年頃から出荷額が増大し、2018年にピークアウトして2019年は大不況に突入した。
この原因は、DRAMが足りないときは価格が高騰し、つくりすぎると価格が暴落するからである。ピークを持つ事情はその時々で異なるが、4〜5年サイクルで価格の高騰と暴落を繰り返しており、その周期のことを“シリコンサイクル”と呼んでいる。
しかし、DRAMの出荷個数には、そのような周期はない。2003年頃まで緩やかに増えていき、その後、急速に出荷個数が増大する。これは、21世紀になって、中国をはじめとするアジア諸国が経済発展を遂げ、携帯電話、PC、デジタル家電などの需要が高まったため、それに搭載されるDRAM個数も増えていったと考えている。
ところが、2010年以降は、DRAM出荷個数は150億個前後で横ばいとなる。その理由は、DRAMメーカーが次々と淘汰されていったことによる。図6に示したように、2011年には既に4社に集約された。ところが、2012年にエルピーダメモリが倒産してMicronに買収されたため、2013年以降は、Samsung Electronics、SK Hynix、Micronの3社が96%の市場シェアを寡占化するようになった。
これら3社は、「作りすぎると価格が暴落する」ことが身に染みて分かっているため、お互いを横目で見ながら、生産調整をしていると考えられる。簡単に言えば、一種の談合である(ただし密室談合ではない)。このようなことから、DRAMは年間150億個しか出荷されない状態になっているわけだ(注:ところが2019年は価格が低迷したままなのに過去最高の約170億個が出荷された。この理由は、今のところ不明である)。
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