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「第3期」を迎えた組み込みCPU、けん引役はRISC-Vかオープンアーキテクチャの時代

32/64ビットの組み込みプロセッサにおいて、“第1期”と“第2期”では、独自のアーキテクチャが基本だった。だが、“第3期”はそうではなさそうだ。第3期の主役は、業界標準でオープンスタンダードのアーキテクチャである。このムーブメントの先駆けとなったのがRISC-Vだ。

» 2020年04月14日 11時30分 公開

 32/64ビットの組み込みプロセッサにおいて、“第1期”と“第2期”では、独自のアーキテクチャが基本だった。だが、“第3期”はそうではなさそうだ。

第1期:独自アーキテクチャの時代

 組み込みプロセッサの第1期は、おおむね1980年代から1990年代である。この時代には、半導体企業は独占所有権を持つ独自のCPUアーキテクチャを開発していた。当時はそのようなアーキテクチャが多数存在していた。それらのアーキテクチャを維持するためのコストの負担が増す一方で、サードパーティーのOSベンダーは、コストや複雑さ、ROI(投資利益率)などに絡んだ理由から、複数の独自CPUアーキテクチャをサポートすることを敬遠していた。

第2期:コアIPビジネスの時代

 だが、開発コストが逼迫し、サードパーティーにソフトウェアサポートまで期待するのは難しいといった背景から、半導体企業は独自のアーキテクチャを手放し、プロセッサコアIP(Intellectual Property)のライセンス供与/購入というビジネスが生まれた。

 これが1990年代から始まった“第2期”である。Arm、ARC、MIPS、Tensilicaといった企業がプロセッサコアIPを提供し始めた。

 Armはアーキテクチャのライセンスを供与していたが、それは、顧客が独自の実装を開発する権利を顧客に与えるというものだった。ARC、MIPS、Tensilicaは特定のニッチな市場を占拠した。

 ArmのさまざまなCPUコアが、顧客の製品ロードマップ内で拡大していった。サードパーティーのソフトウェアとツールから成るエコシステムはArmを中心に融合し、他の組み込みCPUアーキテクチャに対するサポートを中止したり、拒絶したりした。Armは現在、CPU IPでトッププレイヤーとなっている。

 顧客は徐々に、すぐに斬新的になったイノベーションや不要な機能に対する高額なライセンス料を支払うこと拒否できなくなっていった。Armにライセンスを供与することで解雇されるエンジニアはいなかっただろうが、重役らは次第に目から涙が出るような料金にひるむようになっていった。不可欠なサードパーティのソフトウェアやツールを用いてアーキテクチャを市場に出せるほど強力なベンダーは一つもなくなり、信頼できるサードパーティという選択肢は消えた。つまり、顧客は自らが仕掛けた罠にはまったのだ。

第3期:オープンアーキテクチャの時代

 そして2010年になると、“第3期”が始まった。

 第3期の主役は、業界標準でオープンスタンダードのアーキテクチャである。このムーブメントの先駆けとなったのがRISC-Vだ。RISC-Vを用いると、ライセンシー(ライセンス使用者)が一つのベンダーにとらわれることはなくなる。RISC-VプロセッサIPをライセンス供与している他のベンダーにも移行することが可能だからだ。それにより、市場が1社のベンダーによって“人質にとられる”可能性は減り、ライセンス供与を継続できるようになった他、ロイヤリティーは比較的低くなった。

 一方、RISC-Vベンダーは、性能やサイズ、パワー、カスタマイズといった点で、多角的に差別化を図る必要がある。

 RISC-Vの台頭に対するArmの対応は、明らかにArmの動揺を示すものだった。同社はまず、RISC-Vに対するFUD(Fear, Uncertainty, Doubt:恐怖、不安、疑念)をあおるマーケティング戦略を打ち出したが、これはRISC-Vの存在を業界に知らしめる効果しかなかった(IBMがミニコンピュータベンダーに対してFUD戦略を実施した際も、同じような効果しかなかった)。

 次に、ArmはRISC-Vの新興企業が資金を使い果たすのを待った。だが、Armの予想に反して、新興のRISC-VベンダーはローエンドのプロセッサIPコアで顧客を獲得し始めた。顧客は、少なくともローエンドではArmに代わる製品があることに気付き、より多くのベンチャーキャピタル(およびコーポレートベンチャーキャピタル)の投資がRISC-Vに流れた。また、Western DigitalなどRISC-Vを強力に支援する大手企業も出始めたのである。

Armのエコシステムには到底及ばずとも、着実に勢力を拡大しているRISC-V 出典:RISC-V Foundation(クリックで拡大)

 さらに今、Armの顧客の中で、長年懇意にしていたサプライヤーがもたらす対価(VFM:Value For Money)を見直す企業が増えている。

 RISC-Vベンダーが収益力を上げていく中で、Armの次なる手は、CPUの特許を主張することだろうか。これによって、特許をほとんど持たないRISC-Vの新興企業が失速したり、倒産したりする可能性も生まれてくる。Armの顧客を困らせ、RISC-Vへの支持を高めることになるかもしれない。RISC-Vベンダーはどうだろうか? 倒産するベンダーもあれば、買収されるベンダーもあるだろう。成功する企業はわずかだろう。競合他社と同じ汎用製品を提供することでは、成功できない。

 支配的なプレイヤーが滅びることは、そうそうあるものではない。だが、他のプレイヤーが台頭し、新しい需要が加速することで、支配的なプレイヤーが衰退することは往々にしてある。RISC-Vを手掛ける新興企業にとって重要なのは、ローエンドを超えてRISC-Vに移行してもらうにはどうすればよいのか、ということだろう。

【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

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