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もはや怪談、「量子コンピュータ」は分からなくて構わない踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(1)量子コンピュータ(1)(3/9 ページ)

» 2020年04月24日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「量子」のイメージをうまく伝えているアニメ

 「量子」というのは、それ自身がとても不思議で神秘的で、その原理や内容が分からなくても、十分にワクワクさせられるものです。それが顕著に現われるコンテンツが、SF、アニメーションです。

 最初は、この例をいくつか挙げてみたいと思います。

 まずは、定番アニメ「「シュタインズ・ゲート」シリーズ」から見てみましょう。

 「世界線」という言葉を、これほど世間に広げたアニメはないでしょう。また、世界でただ一人、異なる世界の情報をいつまでも記憶しつづける主人公の能力から、「観測」という言葉も定着化しました。また、「神はサイコロを振らない(Der Alte würfelt nicht)」というパスワードは、多世界解釈(後述)を描くこのアニメにはふさわしいセリフと言えます。

 もっとも、この「世界線」「観測」も、量子論から見た場合、正しい使い方ではありませんが、雰囲気は良く伝わってきます。

 では、次はアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」を見てみましょう。

 これは、思春期症候群というフィクションの現象(病気)を、量子論の超絶な拡大解釈をして、ティーンエージャーの恋愛ラブコメとして描く、ライトノベル/アニメ作品です。

 特筆すべきは「ラプラスの悪魔」です。これは古典力学(×量子力学)から、私たちの世界の現象を説明可能とする導かれる考え方です。

 ひと言で言えば、「原因によって結果は一義的に導かれる(因果律)のだから、未来は全て確定している」という考え方(正確にいうと、「確定した未来を予測できる悪魔」のこと)です。

 この考え方、私も若い頃よく使っていました ―― 特に、テストの点が悪かった時に、『未来が確定しているなら、努力したって無駄じゃん』と言い訳しながら(ちなみに、現在、このラプラスの悪魔は、量子力学によって否定されています)。

 次回以降に説明しますが、「量子テレポーテーション」も、「別の銀河にある惑星に人間を一瞬で転送する」というような「超高速通信」ではありません。

 また、「量子もつれ」も、このアニメで出てくるような、「離れていたカップルが同じ現象に巻き込まれる」とか「自分のドッペルゲンガーが現われる」などという現象ではありません*)

*)後述する「多世界解釈」では、ありえるかもしれません。

 しかし、言葉の持つ雰囲気は良く伝わってきます。

 このような「量子論の言葉のイメージ」を使ったアニメのコンテンツは、枚挙にいとまがありません。私はこのような言葉の使われ方、とても良いと思っています。「量子の振る舞いの『気持ち悪さ』」を感じるなら、これらのアニメで十分です。

 私は、子どもたちが知った風に「量子論」を語るのを見るのが好きです。もし、彼らが中二病を発病するなら『フッ、そうか。それが”神はさいころを振らない”という選択か……』の方がいいです。『し、静まれ……俺の右腕よ……怒りを静めろ!!』よりは、ずっとマシです。

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