さて、この「量子コンピュータ」についての連載方針ですが、担当のMさんに提出した企画書を、そっくりそのまま公開します。
■本シリーズ各回の題目案
「量子コンピュータは、分からなくても構わない」
「『量子コンピュータを理解している』といっている奴は、嘘をついている」
「なぜ、量子コンピュータの勉強は失敗するのか」
「量子コンピュータが理解できないのは、私たちの責任でではない」
「量子コンピュータを理解するのは諦めましょう」
■趣旨
趣旨は、上記の「題目案」の方向とする。量子コンピュータを理解する努力をする時間があれば、もっと別のことをやればいい。いずれ、量子コンピュータは動きだし「量子コンピュータ」から「量子」という言葉も消えるだろう。だから、今、無理して理解する必要はない。
だが、本当にそれでいいのか。
また、私たちは、訳の分からない黒い箱(パソコン)、小さい基盤(ラズパイ)、どこにあるのか知らんラックのコンピュータ(クラウド)――そういう、訳の分からないものを、訳の分かっているように言う奴の話を聞いて、フンフンと分かったような顔をして送るだけの人生を送りたいか。
冗談じゃない。私は、それとも、(人工知能と同じように)技術を分った風の顔をしてデタラメを語る野郎に「バカ言っているんじゃねえ! このド素人が!!」と啖呵(たんか)を切りたい。
-----
しかし、今回勉強して分かったことだが、「量子コンピュータの原理はハンパなく難しい」ということである。
まず基本のコンピュータのビット、ゲート、回路理論を理解していなければならないし、複素数の意味を理解していなければならない(幸運にも、私は大学(電子工学部)で叩き込まれてきたが)。
これだけでも、十分に面倒くさいのに、ここから「量子ビット」「量子ゲート」、そして「量子もつれ」という大変鬱陶(うっとう)しいものや、「量子回路」、「量子テレポーテーション」「量子フーリエ変換(逆変換も)」そして、「量子アルゴリズム(グローバー、ショア)」を理解しなければならない。
さらに、「量子アニーリング」までも含めると、量子コンピュータの世界は、絶望的に広く、うんざりするほど深い。
加えて、量子ビットを実現するデバイスなどに至っては、現在、その候補は10〜20もあるという状況である。
-----
このような量子コンピュータに必要な知識を理解していないライターが、記事を書くとどうなるか?
それがネット上で、得意気に記載されている、あの「量子コンピュータ、凄い!凄い!」を連呼するだけの、意味不明な解説記事である ―― 正直、腹が立つ。
そこで、本コラムの目的をこの一点に注力する。
―― やつら(の記事)を嗤(わら)う
こんなことに意味があるかどうかは分からない。だが、すくなくとも私(江端)にとっては「やつらを嗤う」ためなら、なんだってしてやるつもりである ―― つくづく、自分はイヤな奴だと思うけど。
■執筆方針
(1)ざっくりした量子コンピュータの理解の説明に終始する(但し、他の人から嗤われない程度には詳しく)。
(2)正確性には拘らない。メタ表現、擬人化、各種の喩えを行い、理解の為なら誇張や嘘の記載も厭わない。
(3)数式は可能な限り使わない(どうせ私も分からない)。図表を大量に使用する予定である。
(4)理解できなかったことは、正直に「理解できなかった」と書く
■読者ターゲット
EE Times Japanの読者であって、
(1)古典コンピュータ(後述)のビット、ゲート、回路理論は一応理解している。
(2)複素数計算の方法と意義を一通り知っている(一応説明する予定)。
(3)シュレーディンガー方程式は知らなくてもいい(私も知らない)
加えて、
(4)アニメ「シュタインズ・ゲート」と「シュタインズ・ゲート ゼロ」(以下、「シュタインズ・ゲート」シリーズ、という)の両方の視聴を、強く推奨する
とする。
■連載予定
とりあえず、小さいものから大きいものへ、単純なものから複雑なものへ、とする。
連載の順番は、以下のようにする。
(第1回)だから量子ビットって何なんだ?何が美味しいんだ
(第2回)だから量子ゲートの種類は、どうしてこの3つになるんだ?
(第3回)どうして、高速計算ができるって言い切れるんだ?
(第4回)量子回路モデルって、何?
(第5回)量子アニーリングって、何?
(第6回)量子コンピュータのハードウェア、各社の取り組み状況、総括
の、だいたい6回程度を予定。
以上。
それでは、本連載の第一回を始めたいと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.