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「VLSIシンポジウム2020」は初のオンライン開催に「これからの40年」がテーマ(3/3 ページ)

» 2020年05月22日 11時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]
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VLSI回路シンポジウム

 VLSI回路シンポジウムの投稿論文数は321件で、2019年の299件から増加した。採択論文数(招待論文を除く)は110件。国別の採択件数は首位が米国で49件、韓国が20件、日本は10件だった。ただ、中国や台湾の採択件数が2019年に比べて減っており、これはCOVID-19の影響だとVLSIシンポジウム委員会は説明する。論文の最終提出時期が、COVID-19の感染拡大防止のために延長された春節付近に当たってしまったからだという。分野別の採択論文数は、プロセッサアーキテクチャが最も多く、メモリ、センサー、ディスプレイと続いた。

左=投稿論文数と採択論文数の推移/右=分野別の採択論文数と日本の採択数 出典:VLSIシンポジウム委員会(クリックで拡大)

注目論文

・5G向け28GHz帯偏波MIMOトランシーバー(東京工業大学/NEC)

 16個のCMOSチップを搭載した64アンテナ素子の28GHz帯フェーズドアレイを用いて、偏波MIMO(1つのアンテナから2つの直交する偏波信号を送受信するMIMO技術)によるミリ波無線通信を実証した。従来の課題であった偏波間の信号漏えいを、ICに内蔵したリークキャンセル回路で補正することで、変調精度を7.6%から3.2%にまで改善している。

・5G対応マルチスタンダード無線機(Samsung Electronics)

 14nm FinFETで製造したマルチスタンダード(2G〜5Gまで)無線機で、7バンドのCA(キャリアアグリゲーション)と4×4 MIMOに対応している。無線フロントエンドとベースバンドIC間をデジタルインタフェースとすることで、配線本数を大幅に削減することに成功した。

・シリコンフォトニクスを活用した8×8光スイッチ(IBM)

 シリコンフォトニクス技術を活用し、光素子と、光信号パスを切り替える制御回路を1チップ化した光スイッチを発表する。15ナノ秒以下と高速に光信号パスを切り替えることができる。従来の電気スイッチのような光-電気変換機能が不要なので、消費電力も低減できる。チップは90nm SOI CMOSで作成されていて、サイズは12×7mm。消費電力は1.5W。

左=28GHz帯偏波MIMOトランシーバー/右=シリコンフォトニクスを活用した8×8光スイッチ 出典:VLSIシンポジウム委員会(クリックで拡大)

・1.8Gビット/秒/pinのIO性能を実現する16Tビット NANDフラッシュ(Samsung Electronics)

 PCI Express Gen 4に対応するために、NANDフラッシュのチップスタックとホストコントローラー間を高いスループットで接続するインタフェース技術を発表する。Samsungは、サンプルタイミングや読み出し時に問題となるクロックデューティ比の誤差を補正するセルフテスト回路技術を開発。これを実装することで、1ピン当たり1.8Gビット/秒のスループットを実現し、前世代品と比較して35%の高速化を達成した。

・DSP性能向上に向けた電力予測に基づくクロック周波数の能動的制御(Qualcomm/University of Texas)

 7nmプロセスを用いたDSPを発表する。電源電圧の瞬間的な低下の原因となるマイクロアーキテクチャレベルのイベントに基づいて、電圧低下を予測し、それを緩和する技術を実装している。予測に基づいてクロック周波数を能動的に制御することで、10%高いクロック周波数で動作させる、もしくは5%低い最低動作電圧で動作させることが可能になる。

・サイドチャネルアタックに強い暗号プロセッサ(Intel)

 ポスト量子暗号(RSA暗号)システムに向けた、サイドチャネルアタック(SCA)に強いRSA-4K暗号プロセッサ。公開鍵暗号化の方法として回路の難読化と乱数化を用いることで、SCAに対する強さを維持しつつ、エリア/性能オーバーヘッドを3%にとどめていることが特長となっている。

・32GHzで動作する極低温超電導4ビットプロセッサ(九州大学/名古屋大学)

 コンピュータの高性能化と低電力化を両立する技術として期待されている、ジョセフソン接合を用いた超電導単一磁束量子(SFQ:Single Flux Quantum)回路を用いた4ビットプロセッサ。ゲートレベルパイプラインアーキテクチャを初めて採用し、液体ヘリウムで4.2K(ケルビン)に冷却した環境で最大32GHzでの動作を実現した。2.5TOPS/Wの電力効率を達成している。

・大規模システム向けのAIプロセッサ(IBM)

 DLFloat16に対応したコンパクトなFPU(Floating Point Unit)を持ち、データフローなどを変えられる構成の演算エンジンを実装したプロセッサコア。14nmプロセスを用いて開発された。コアの稼働効率が向上し、学習では0.62Vで0.30TFLOPS/mm2、推論では0.54Vで1.4TFLOPS/Wの演算性能を達成した。

・IoT向けピエゾ抵抗式圧力センサー(University of Michigan/CubeWorks)

 容積20mm3の小型パッケージ内に集積したバッテリー駆動のピエゾ抵抗式圧力センサー。高感度で信号を検出できるホイートストーンブリッジ型センサー回路を400ナノ秒未満だけデューティ駆動し、高効率アンプとフルレンジ電圧の一部であるサブレンジをA-D変換する手法を用いることで、6.1nJ・mmHg2の効率と±0.75mmHgの精度を達成した。

左=極低温超電導4ビットプロセッサ/右=IoT向けピエゾ抵抗式圧力センサー 出典:VLSIシンポジウム委員会(クリックで拡大)

・レーザー光の干渉防止機能を内蔵したLiDAR(Sungkyunkwan University)

 システムごとに固有の時間間隔を設けた2つのレーザーパルスを照射することで、他のLiDARシステムによるレーザー光や反射光を分離し、干渉に強い構成を実現した。

・人工虹彩スマートコンタクトレンズデバイス(imec)

 開口径を可変できる人工虹彩を搭載したコンタクトレンズで、光センサーとまばたきセンサーの情報を基に開口を制御する。スマートコンタクトレンズ全体の消費電力を1.9μWに抑えた。NFCによるワイヤレス電力伝送で駆動できるほど省電力である。

左=干渉に強いLiDAR/右=省電力の人工虹彩スマートコンタクトレンズデバイス 出典:VLSIシンポジウム委員会(クリックで拡大)
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