東京大学は2020年5月、広島大学や大阪大学らのグループと共同で、電荷密度波を形成する「VTe2」の電子構造を解明し、トポロジカルな性質が変化する現象を発見した。
東京大学は2020年5月、広島大学や大阪大学らのグループと共同で、電荷密度波を形成する「VTe2」の電子構造を解明し、トポロジカルな性質が変化する現象を発見したと発表した。
今回の研究は、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の三石夏樹大学院生や同研究科附属量子相エレクトロニクス研究センターの石坂香子教授らによる研究グループと、同研究科物理工学専攻のMohamed Saeed Bahramy主幹研究員や求幸年教授らによる研究グループ、高エネルギー加速器研究機構の組頭広志教授らによる研究グループ、広島大学放射光科学研究センターの奥田太一教授らによる研究グループおよび、大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻の石渡晋太郎教授らによるグループが共同で行った。
トポロジカル絶縁体と呼ばれる物質は、固体内部が絶縁体であるのに対し、表面は「トポロジカル表面状態」と呼ばれる状態となって電流が流れる。トポロジカル表面状態は大気の乱れなどによる影響を受けにくく、量子計算や非散逸電子デバイスなどへの応用が期待されている。
トポロジカル物性の発現については、電子構造の「ねじれ(バンド反転)」がカギを握るという。バンド反転を制御する方法はこれまでもいくつか報告されてきた。ところが、これらの多くはバンド反転を高速に行うことが難しく、動的に制御できる新たな方法が求められていたという。
研究グループは今回、電荷密度波に注目し「電荷密度波トポロジカル物質」を探すことにした。具体的には、遷移金属ダイカルコゲナイドの一種である「VTe2」の単結晶試料を製作し、スピン分解・角度分解光電子分光法を用いて、固体内部(バルク)と表面の電子構造を調べた。
実験により、電荷密度波のない一様相では、V字型のバルク状態(ピンク色の曲線)とX型のトポロジカル表面状態(水色の破線)が存在することが分かった。バルク状態を3次元的に測定したところ、トポロジカル表面状態の発現に必要なバンド反転が生じていることを確認した。これは、第一原理計算によって得られた電子構造の計算結果とも整合するという。電荷密度波相でも同様の測定を行ったところ、一部のV字型のバルク状態が平たんとなり、トポロジカル表面状態が消失することも明らかになった。
今回の研究成果により、電荷密度波トポロジカル物質は、トポロジカル状態の高速制御に向けた有力な候補材料になり得ることが分かった。今後は、新たな電荷密度波トポロジカル物質の探索に取り組む。併せて、外場を印加した時にバルク状態とトポロジカル表面状態が示す応答についても研究を進めていく計画である。
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