東京大学は、炭酸エステル類に代わる多機能溶媒を設計し、合成することに成功した。開発した多機能溶媒をリチウムイオン電池の電解液として用いれば、高い安全性とエネルギー密度、長寿命を同時に実現することが可能になる。
東京大学大学院工学系研究科の山田淳夫教授と東京大学大学院理学系研究科の中村栄一特任教授らによる研究グループは2002年3月、炭酸エステル類に代わる多機能溶媒を設計し、合成することに成功したと発表した。開発した多機能溶媒をリチウムイオン電池の電解液として用いれば、高い安全性とエネルギー密度、長寿命を同時に実現することが可能になるという。
リチウムイオン電池は、モバイル機器や電気自動車などの電源としてさまざまな用途で活用されている。ただ、可燃性の有機電解液(炭酸エステル類)を用いているため、火災事故が発生するなど、安全性に課題があった。
そこで研究グループは、炭酸エチレン(EC)や炭酸ジメチル(DMC)など炭酸エステル類の代替溶媒として、難燃性と機能性を有する電解液材料の開発に取り組んだ。開発した溶媒は、ECと同じ五角形構造(五員環)のフッ素化リン酸エステル(TFEP)である。SEI(solid electrolyte interphase)と呼ばれる保護膜を形成する能力を持つ。その上、リン酸エステルのように難燃性もある。さらに、フッ素化溶媒の特長である高い酸化耐性を併せ持つという。
開発した溶媒を電解液として用い、その特性を検証した。この結果、リン酸エステル系溶媒では不可能といわれてきた、黒鉛負極の可逆的充放電反応が可能となった。しかも、商用電解液を用いた場合に比べて、良好な繰り返し充放電特性が得られることも分かった。
さらに、リチウム基準4.9Vの高い酸化耐性を示すと同時に、商用のLiPF6以外のリチウム塩を用いた場合に課題となっていた正極アルミニウム集電体の酸化腐食を抑制できるという。これらの結果から、次世代高電位正極(LiNi0.5Mn1.5O4)は、安定した繰り返し充放電も可能であることが分かった。
TFEPを導入したことで自己消火時間がゼロになるなど、難燃性も確認された。ECの代替溶媒として、既存の電池生産ラインをそのまま利用することが可能なため、実証実験も容易に行うことができるという。
研究グループは今後、開発した電解液の早期実用化に向けて、課題解決に取り組む。さらに、一段と高機能な電池材料の開発を進めていく予定である。
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