物質・材料研究機構(NIMS)と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究チームは、ウエハー接合技術を用い、磁気抵抗特性に優れた単結晶ホイスラー合金巨大磁気抵抗素子を、シリコン基板上へ作製することに成功した。
物質・材料研究機構(NIMS)と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究チームは2020年5月、ウエハー接合技術を用い、磁気抵抗特性に優れた単結晶ホイスラー合金巨大磁気抵抗素子を、シリコン基板上へ作製することに成功したと発表した。
今回の研究は、NIMS磁性・スピントロニクス材料研究拠点の桜庭裕弥グループリーダーらと、産総研スピントロニクス研究センターの薬師寺啓研究チーム長、デバイス技術研究部門の高木秀樹総括研究主幹、菊地克弥研究グループ長らが共同で行った。
HDDのさらなる大容量化を実現するため、再生ヘッドに用いる磁気抵抗素子の性能向上が期待されている。磁気抵抗(MR)比が極めて高い素子の研究などもその1つである。例えば、「ハーフメタル」と呼ばれるホイスラー合金を用いた面直電流型巨大磁気抵抗素子(CPP-GMR)などである。
ところが、これらはコストが高い単結晶酸化マグネシウム(MgO)基板を用いたり、製造プロセスで300℃を超える熱処理が必要になったりと、本格実用化に向けては課題も多いという。さらに、HDD用再生ヘッドとなる磁気抵抗素子は、多結晶構造の磁気シールド電極膜上に直接成長させる必要があり、結晶構造の不整合によってそれ自体、原理的に不可能だという。
研究グループは今回、単結晶CPP-GMR素子膜と多結晶電極膜を、それぞれ別の基板上に成長させ、これらを3次元積層技術によってウエハー接合することを目指した。まず、NIMSがシリコン基板上に、Co基のホイスラー合金ハーフメタルを磁性層とした単結晶CPP-GMR素子を作製するための技術を開発した。
具体的には、シリコン(001)単結晶基板上に、NiAl/CoFeの2層構造からなる下地層を(001)方位に単結晶成長させた。同様に、(001)配向のCFGG/Ag/CFGG単結晶CPP-GMR膜を、下地層の上に成長させることができることも分かった。
結晶成長後には、高い規則構造のホイスラー合金となるよう、500℃の熱処理を行った。それでも単結晶CPP-GMR膜にはダメージがなく、単結晶MgO基板に成長させたのと同等のMR比が得られることを確認した。
次に、作製したシリコン基板上の単結晶CPP-GMR膜と、多結晶磁気シールド電極膜とのウエハー接合を行った。この作業は産総研デバイス技術研究部門が担当し、三菱重工業製の全自動常温ウエハー接合装置「MWB-12-ST」を用いて行った。
今回のウエハー接合実験では、それぞれにAu(金)を用いた場合に、最も良好な接合界面となることが分かった。接合界面の断面を電子顕微鏡で観測したところ、欠陥のないスムーズな単結晶Au/多結晶Au接合界面で、単結晶CPP-GMR積層膜にはダメージがないことを確認した。また、単結晶CPP-GMR膜側のシリコン基板を研削、接合後の磁気抵抗効果を評価したところ、接合前と同等のMR比を確認したという。
今回の成果について研究グループは、大容量HDDやMRAM、高感度磁気センサーといったさまざまなスピントロニクスデバイスへの応用が期待できるとみている。
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