東京大学らによる共同研究グループは、有機半導体単結晶の薄膜上でチャネル長1μmを実現する微細加工手法を開発した。この手法を用い、遮断周波数が38MHzの有機トランジスタを実現した。
東京大学と産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構(NIMS)の共同研究グループは2020年2月、有機半導体単結晶の薄膜上でチャネル長1μmを実現する微細加工手法を開発したと発表。この手法を用いて、遮断周波数が38MHzの有機トランジスタを実現した。
有機半導体は、有機溶媒に溶かしたインクと印刷プロセスを用いて、広い面積に柔軟性のあるデバイスを作製することができる。このため、次世代半導体材料として注目を集めている。既に有機単結晶薄膜で10cm2/Vsを超える高い移動度を実現するなど、早期実用化に期待が高まる。
ただ、半導体デバイスの応答周波数は、トランジスタの移動度と、そのチャネル長に依存するという。フォトレジストを用いた従来のリソグラフィ加工法では、有機半導体薄膜にダメージを与えるため、有機トランジスタの高移動度と短チャネル化を両立させるのは極めて難しかった。
東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻の山村祥史氏や渡邉峻一郎特任准教授、竹谷純一教授らによる研究グループは今回、有機半導体単結晶の薄膜上にフッ素系高分子膜を薄くコーティングする新たな手法を開発した。この方法を用いて、有機半導体薄膜にダメージを与えることなく、1μmレベルの微細加工を可能にした。
作製した有機トランジスタは、10cm2/Vsの高移動度と短チャネル化を両立させた。これによって、遮断周波数は38MHzを達成した。研究グループがこれまで試作したデバイスに比べ、その数値は2倍だという。新たに開発した有機トランジスタは、100MHzでも整流性が失われないことも分かった。
研究グループは、「今回作製したデバイスは、無線タグの給電に十分応用できるレベルの性能に達している。応答周波数がさらに増加していけば、超短波帯を用いた長距離無線通信を可能にする有機ICも実現可能」とみている。
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