先日、COVID-19に関するコラム(シバタ先生のメール)を「あの医師がエンジニアに寄せた“コロナにまつわる13の考察”」としてリリース致しましたが、この執筆作業によって、こちらの「量子コンピュータ」の連載のスケジュールの見直しが必要となり、担当のMさんと締め切りについてご相談しました。
江端智一 7月14日(火) 10:39
(前略)
昨日、シバタ先生から、「私との修正作業が2往復は必要かもしれない」との見積を頂きました。
(中略)
という訳で、今週中のリリースについては、"量子状態"でお待ち頂きたく、よろしくお願い致します。
"量子"の方は、私の見積では、あと3営業日必要ということで、20日(月)提出はちょっと危うく、27日(月)提出は、お約束できるかと思います。
引き続きよろしくお願い致します。
江端智一
EE Times Japan MM 7月14日(火) 11:31
江端様
担当Mです。お世話になっております。
下記、承知致しました。
“0猫””1猫”状態でお待ちしております。
M
―― という感じで、最近私の周りでは、”0猫”、”1猫”という言葉が頻用されるようになってきました(感想を送ってくださる読者の方のメールにも、普通に"0猫"、"1猫"と書かれています)。
自分で言うのもなんですが、便利な言葉を「発明した」と自画自賛しています。
原稿を期日内にMさんに送付できた瞬間、”1”で確定し、締め切りを過ぎてしまったら”0”で確定しますが、その瞬間までは、私の原稿は、"0猫"、"1猫"が併存している状態なのです。
一方、ちょっと心配になってきました。今後、この"0猫"、"1猫"は、色々な分野で便利な言葉として使われていくかもしれませんが、絶対に使ってはならない分野もあります。それが、「量子物理学」や「量子コンピュータ」の世界です。
以下に、「無責任な単語を製造した」と言われないように、今の段階で、逃げ……注意喚起をさせて頂きます。
論文等では、"0猫"→"|0>"、"1猫"→"|1>"というブラケット表記をするのが正しいです。ただ、これは1量子ビットの表記です。つまり1匹の猫の中に2つの状態の猫が同時に共存している状態です。
次回は、2量子ビット扱うことになりますが、その場合は”00猫”、 "01猫"、"10猫"、"11猫"という、1匹の猫の中に4つの状態の猫が同時に共存し、これが3量子ビットとなれば、"000猫"、"001猫"、……(以下省略)8つの状態の猫が同時に共存することになります。
量子コンピュータの本質的強みは、この膨大な数の猫にあります。8量子ビットであれば、例えば”01001010猫”のような状態が、256状態/1匹存在するようになります。
16量子ビットであれば、例えば、"0010101001001010猫"のような状態が、65536状態/1匹となり、計算時には、65536状態の猫が飛び回り、観測時に、それがたった1匹に確定する、ということです。
これでお分かりでしょうが、今の私が、四苦八苦しながら勉強している、"0猫"、"1猫"の2状態の猫というのは、これ以上簡単にすることができない最も単純な量子ビットなのです。
それにもかかわらず、最高に単純な1量子ビットの理解と説明の難しさに、心底から絶望的な気分になっています。
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