図6に、TrendForceのMemory & Storage DivisionのMark Liu氏が、2020年6月に開催したWebセミナーで発表したDRAMの用途別生産量(2Gb換算の出荷個数)を示す。なお、2019年までは実績値で、2020年以降はTrendForceの予測値である。この図から、次のことが分かる。
2014年までは、PC用に最も多くのDRAMが生産された。ところが、2015年からは、主役の座がPC用からモバイル用に移行した。TrendForceの予測では、2021年までは、モバイル用に最も多くのDRAMが生産される。そして、2022年以降は、DRAMの主戦場が、モバイル用からサーバ用へ移行すると、TrendoForceは予測している。
要するに、DRAMをけん引する電子機器が、PCからモバイルを経てサーバへと移行することになるわけだ。そして、DRAMメーカー3社は、主戦場となるサーバ用DRAMで覇権を握るために、ウエハーインプットを増やしており、それが2019年第3四半期以降のDRAM出荷個数の高止まりの直接要因となっていると推測した。
ここまでをまとめよう。2019年第3四半期以降、DRAM出荷個数が高止まりしている。この第一の要因は、中国のDRAMメーカーを警戒したMicronが最悪の場合でも生き残ることができるように、「1世代1年」に宗旨替えし、売上高シェアでSK hynixを抜いて第2位になるためにウエハーインプットを増やしていることにあった。
また第二の要因は(こちらが本質的であるが)、DRAMの主戦場がモバイル用からサーバ用に移行しようとしており、Samsung、SK hynix、Micronがサーバ用DRAMで覇権を握るために、3社全てがウエハーインプットを増大させていることにある。
以上の分析から、DRAMメーカー3社が”暗黙の談合“によって生産調整を行ってきた平和な時代は終えんを迎え、サーバ用DRAMの覇権を巡って、大競争時代がやってきたと言えよう。
果たして、サーバ用DRAMの覇権を握るのはどこか? などと他人事のように物見遊山を決め込むこともできない。というのは、3社全てが増産に舵を切れば、過剰供給となり、価格暴落を引き起こすことは火を見るよりも明らかだからだ。
筆者の懸念は現実となった。2020年に入って価格が高騰し、4月から6月まで143.1米ドルに高止まりしていたサーバ用DRAM(32GB、DDR4)の大口取引(Contract)価格が、7月になって134米ドルに下落した(図7)。それだけでなく、Contract価格の指標として使われる8G DRAM(DDR4)も128G NAND(MLC)も、7月に下落している(図8)。
嫌な予感がしたので、四半期毎のMPU(プロセッサ)、DRAM、NANDの出荷個数の推移を調べてみた(図9)。この図のMPUの出荷個数の挙動に着目して頂きたい。
Intelが10nmの立ち上げに失敗した頃の2016年第3四半期に最大1.36億個出荷されていたMPUは、2019年第1四半期に4800万個少ない8800万個まで落ち込んだ。この要因として筆者は、「AMDがTSMCに7nm以降を生産委託して高性能MPUをリリースしているのに対して、14nmを延命せざるを得ないIntelが、高性能化のためにコア数を増やして行き、その結果、チップサイズが大きくなり、1枚のウエハーから取得できるチップ数は減少したことに起因している」と分析した(関連記事:「インテル、困ってる? 〜プロセッサの供給不足は、いつ解消されるのか?」)。
その後、MPUの出荷個数は、2019年第4四半期に1.06億個まで回復している。ピーク時まであと3000万個と思っていたら、再び2020年第2四半期に9900万個に減少しているではないか。MPUが足りない状態でDRAMを増産したら、過剰供給となり、価格が暴落するのは当たり前である。一体、どこの誰が原因で、MPU不足を招いているのか?
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