自動車メーカーが、半導体チップの供給を確保できていない。これは、半導体業界全体で広く不足が生じるということを反映する。この先いつになれば安定した状況に回復するのかは、誰にも分からない。
自動車メーカーが、半導体チップの供給を確保できていない。これは、半導体業界全体で広く不足が生じるということを反映する。この先いつになれば安定した状況に回復するのかは、誰にも分からない。
世界トップ3に入るファウンドリーであるTSMCとUMCは2021年1月28日(台湾時間)、「われわれは現在、全力で稼働している状況にある。自分たちにできる最善の対応として、生産を再配分することにより、Volkswagenやトヨタ自動車をはじめとする世界各国の自動車メーカーの需要に応えていきたい考えだ」と発表した。自動車メーカー各社は今後、AppleやQualcommなどの大規模な半導体調達企業の後ろで順番待ちをしなければならないだろう。
Reutersの報道によると、ドイツ政府は状況の深刻化を受け、台湾政府に対し、TSMCとUMCへのサポート要請を依頼したという。しかし、これら両社が顧客企業や株主たちへの対応を最優先にしている様子を見ると、このドイツ政府の依頼は明らかに無駄に終わったようだ。
2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、世界経済成長や旅行業界が停止した。自動車メーカーも、組み立てラインの稼働を中止せざるを得なくなったが、現在はなんとか生産量を増やそうとしている。また、トランプ前大統領が、Qualcommに半導体チップを供給していたSMICなどの中国のファウンドリーに対して制裁措置を課したことなども、半導体の供給不足をさらに悪化させた要因となっている。
TSMCは発表資料の中で、「われわれは、自動車業界に影響を及ぼしている半導体チップの供給問題について、最優先で取り組んでいるところだ。自動車サプライチェーンは長い上に複雑であるため、当社の自動車関連の顧客企業との協業により、その重要なニーズを明確にしていきたい。TSMCは現在、自社のウエハー工場において、このような重要な自動車製品への対応を進めている。当社の生産能力は、あらゆる分野からの需要向けにフル活用されているが、そのウエハー生産能力を再配分することにより、世界の自動車業界をサポートしていく考えだ」と述べている。
UMCも、同様の見解を示している。
同社は、米国EE Timesとの電子メールのやりとりの中で、「UMCの工場はこれまで、100%の稼働率で対応してきたが、UMCが自動車サプライチェーンの中で非常に重要な位置付けにあるということはよく分かっている。このため現在、自動車業界における半導体供給不足に対応すべく、最善の努力を尽くしているところだ。例えば、2021年の設備投資費を増額して、生産能力を拡大していきたいと考えている」と述べている。
UMCは2021年1月27日に、同社の設備投資予算を、2020年の10億米ドルから2021年には15億米ドルに増額する予定であることを発表した。またTSMCも、設備投資費について、2020年の172億米ドルから2021年には250億〜280億米ドルに増やす予定だとしている。
TSMCは、「自動車市場や自動車サプライチェーンは2020年に、パンデミックにより、顧客企業が第3四半期の需要を削減するなどの影響を受けた。同年第4四半期には発注が回復し始め、40nm/55nmなどの成熟したプロセス技術において供給不足が生じるようになってきた」と述べる。
Wedbush Securitiesのエグゼクティブバイスプレジデントを務めるMatt Bryson氏は、「半導体供給不足は、ファウンドリーの生産能力不足に関連している。その傾向は、特に成熟した旧世代プロセス技術において顕著だ」と述べている。
「5G(第5世代移動通信)向けの機器で搭載部品(モデムのように最先端の製造技術を必要とする部品と、電力管理ICのようにレガシー技術で製造されるICなどの両方)が多くなっていることに加え、スマートフォン出荷台数の増加やPC需要の拡大、周辺機器の需要の拡大といった要因も組み合わさり、ファウンドリーの負荷が高まった。自動車業界も、その影響を受けている」(同氏)
またBryson氏は、「COVID-19の影響で生産量が減少したために、需要や生産量が増加する前に在庫が一掃され、自動車業界のサプライチェーン問題が深刻化してしまった可能性が非常に高い」と続けた。
Bryson氏は、「問題なのは、一部の部品サプライチェーンが現在も、低迷傾向ながらもフル稼働状態にある8インチウエハー生産能力に依存しているという状況の中で、ファウンドリーが生産を拡大できるようになるまでには、まだ長期間を要するという点である。供給不足に対して何らかの緊急措置が講じられている様子はみられない上、より高度な半導体部品を必要とする5Gソリューションが引き続き勢いを増していることから、ファウンドリーは“動く標的”を追っているような状況にある」と述べる。
「投資を加速させたとしても、ファウンドリーの生産能力が需要に追い付けるようになるまでにどれくらいの期間を要するのかは不明だ。恐らく最大限に(部品供給を)制限するとみられることから、自動車向け部品の供給不足が続くことになるだろう」(Bryson氏)
同氏は、「PC/周辺機器の供給が需要に対して大幅に後れを取っているという状況を踏まえると、もしファウンドリーが2021年半ばまでに発注に追い付けるようになったとしたら、それは驚くべきことだ」と述べる。
「以前のような生産能力に余裕がなかった時期には、ファウンドリーの顧客企業が半導体チップを重複発注するのは普通のことだったが、今後はそのような状況にはならないだろう。重複発注が、現在の供給制限や、在庫積み増しによるサプライチェーンの崩壊などの要因になっているとは考えにくい。2021年後半には、切迫した状況が緩和されるのではないだろうか。または、最終的に複数年サイクルに行き着くことも考えられる」(同氏)
EE Timesのインタビューに応じたある投資家によると、Teslaをはじめとする複数の自動車メーカーにとっては、今回の供給不足がプラスになる可能性があるという。
電気自動車(EV)メーカーはサプライチェーンの管理に長けているため、内燃機関車メーカーに比べて競争上の優位性を得られる可能性があり、Teslaの株式を保有するファンドマネジャーによると、半導体不足が起こる前にチップの在庫を確保している可能性が高いという。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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