東北大学は、グラフェンを用い低環境負荷で超高速のデバイスを製造する方法を開発した。テラヘルツ(THz)帯で動作する高品質のグラフェントランジスタを、これまでに比べ100分の1以下という安価な製造コストで実現できるという。
東北大学は2021年2月、グラフェンを用い低環境負荷で超高速のデバイスを製造する方法を開発したと発表した。テラヘルツ(THz)帯で動作する高品質のグラフェントランジスタを、これまでに比べ100分の1以下という安価な製造コストで実現できるという。
今回の成果は、東北大学電気通信研究所の吹留博一准教授らによる研究グループと、信越化学工業、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所、高輝度光科学研究センター、情報通信研究機構(NICT)との共同研究によるものである。
「Beyond 5G」と呼ばれる次世代無線通信システムは、理想的な未来社会「Society 5.0 for SDGs」の基盤インフラとして期待されている。これを実現するキーデバイスの1つがTHz帯で動作するトランジスタである。しかも、インジウム(In)やヒ素(As)などの元素を用いない、新たなTHz帯デバイスの開発が求められているという。
そこで研究グループはグラフェンに注目した。シリコン基板上に、SiC(炭化ケイ素)薄膜を介してグラフィンを直接成長させるGOS(グラフェン・オン・シリコン)技術などを開発してきた。しかし、成長させたグラフェンの品質に課題があり、これまではグラフェントランジスタによるTHz帯動作は難しかったという。
今回は、新たに開発したグラフェン製造法を用いた。それは、信越化学工業が開発したハイブリッドSiC基板を用い、その上にグラフェンを成長させる方法である。ハイブリッドSiC基板とは、バルクSiC基板に水素イオン(H+)を注入し、基板表面から深さ約1μmのところに切れ目を入れて高品質SiC単結晶薄膜を剥がし、Siやサファイア基板などデバイス応用に適した基板に転写したものである。
ハイブリッドSiC基板の大きな特長は、高価なバルク基板を繰り返し利用できる点だ。1つのバルクSiC基板から100枚以上作製することができ、3インチ以上の大面積化が可能である。これによって、グラフェン製造プロセスの材料コストを、従来の100分の1以下に削減することが可能となった。
フォトンファクトリーやSPring-8などの放射光施設にある角度分解光電子分光装置や分光型光電子・低エネルギー電子顕微鏡により、得られたグラフェンの品質や物性を確認したところ、世界最高水準であることも分かった。
開発した製造方法を用いて作製したトランジスタは、入力ゲート電圧(Vg)−出力ドレイン電流の大きな変調度(gm)と電流飽和を同時に実現しているという。動作特性の解析結果から、開発したトランジスタは、THz帯で動作することが分かった。
研究グループは研究成果を活用することで、ハイブリッドSiC基板を共通プラットフォームとした5G用GaNトランジスタやBeyond 5G用グラフェントランジスタを混載した通信回路、超高感度センサー回路などを実現できるとみている。
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