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「iMac」の分解に見る、Appleの“半導体スケーラブル戦略”この10年で起こったこと、次の10年で起こること(53)(1/3 ページ)

Appleの新製品群「AirTag」や「iMac」、新旧世代の「iPad Pro」などのチップを分析すると、Appleが、自社開発の半導体をうまく“横展開”していることが見えてくる。

» 2021年06月02日 11時30分 公開

通信チップを自前でそろえるApple

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 Appleは2021年4月30日、かねてうわさのあった「位置情報」を発信するAirTagの販売を開始した。図1は、AirTagの分解の様子である。Apple製品は分解の難易度が高く、さまざまな工具を組み合わせて分解を進めていくのだが、AirTagにはネジが1つもないので、かみ合わせ場所と接着剤の場所を丁寧に取り外していけば無傷のまま内部を取り出すことができる構造になっている。

図1:2021年4月に発売された「AirTag」 出典:テカナリエレポート(クリックで拡大)

 分解の過程は図1の通りだ。STEP1で電池カバー(Appleロゴのある側)を取り外す。内部にはパナソニックのボタン電池CR2032があらかじめ入っているので、購入時に挿入されている絶縁シートを取り除けばそのまま稼働する。

 STEP2は電池設置のプラスチックフレームの取り外し。STEP3で内部を取り出す。分解はこれだけである。内部は2層構造になっており、通信処理を行う基板と通信用のアンテナで構成されている。通信基板とアンテナはピッタリ重なっており、この分離に若干注意が必要なだけで、分解そのものは非常に簡単なものであった。Apple製品では珍しくユーザーでも電池交換できる製品となっている。

 AirTagの内部にはたくさんのチップが搭載されている。UWB(Ultra Wide Band)の通信チップ、シリアルフラッシュメモリ、3軸加速度センサー、Bluetoothチップなどである。2種類の通信チップが備わっており、UWBとBluetoothを組み合わせている。

 AppleがUWBチップを最初に搭載したのが、2019年の「iPhone 11」、次いで2020年に発売された「Apple Watch Series 6」、そして「iPhone 12」である。AirTagを含め、Appleが独自に開発したUWB通信用チップ「U1」を採用している。

 Appleは今や通信チップを数多く自前で取りそろえるメーカーになっている。Wi-Fi チップ「Wシリーズ」はApple Watchに活用され、Bluetoothオーディオ用「Hシリーズ」は「AirPods」に活用されている。

同じシリコンを横展開

 図2は、AirTagに搭載されているU1、Apple Watch Series 6に搭載されているU1の各チップを開封した様子である。AirTag、Apple Watch Series 6ともにパッケージ内部はモジュール化されており、パッケージのモールドを取り除くと、シリコンと受動素子(コンデンサーやインダクター)が現れる。上段のAirTagではモジュール内に2シリコン、Apple Watch Series 6では1シリコンという構成上の差がある。AirTagではソニー製の通信用アンテナスイッチチップが組み合わされている。Apple Watch側にはないものだ。2機種で作り分けされている。

図2:AirTagと「Apple Watch Series 6」のUWBチップ 出典:テカナリエレポート(クリックで拡大)

 U1そのものは同じシリコンがそのまま活用されている(ただし内部ソフトウェアなどは異なる)。シリコンサイズ、シリコン上の顕微鏡でしか確認できない配線層で書き込まれたシリコンネームなどについても、2チップは完全に一致するものとなっている。

 iPhone 11/12に搭載されているU1チップも同様だ。Appleは同じシリコンを、数多くの大型製品に搭載している。Appleは1つのシリコンを1つの製品にだけ使うのではなく、多くの製品に共通して使うことに長けており、例えば「Aシリーズ」は多くのスマートフォンやタブレット、Uシリーズは上記のようにスマートフォン、ウェアラブル機器などに続々と広げているわけだ。今後もますます応用範囲を広げていくものと思われる。

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