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» 2021年06月15日 11時30分 公開

今こそ、日本の大手電機各社は半導体技術の重要性に気付くべき大山聡の業界スコープ(42)(1/2 ページ)

日本政府や与党・自民党は、半導体産業を重要視し、さまざまな動きを見せ始めている。今回は、この辺りの動きについて、少し整理してみたいと思う。

[大山聡(グロスバーグ),EE Times Japan]
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 2021年6月11日付の日本経済新聞(以下、日経新聞)に「TSMCが熊本県に半導体工場を建設する検討に入った」という記事が掲載された。TSMCは本件について「コメントできない」としている。だが、経産省がTSMCの誘致に非常に積極的に動いていること、日本における半導体産業の再興のためにさまざまな検討を行っていることは事実である。最近では自民党が「半導体戦略推進議員連盟」を発足させるなど、政治家がいったい何を始めるのか分からないながらも、半導体産業を重要視し始めている。この辺りの動きについて、少し整理してみたいと思う。

 下図は、TSMCの地域別売上の推移を示したものである。

TSMCの地域別売上高 TSMC決算資料よりGrossberg作成

 2021年第1四半期(1Q21)の実績では、北米向け売上高が67%を占め、アジア向けが17%、中国向けが6%、欧州向けが6%、日本向けが4%になっている。いうまでもなくTSMCにとって最も重要な地域は北米である。米国アリゾナに5nmプロセスの量産工場を建設するのは、TSMCにとっても、誘致した米国にとっても、極めてリーズナブルなことだといえそうである。これに対して日本はTSMCにとって重要な市場とは言い難く、大手顧客もアプリケーションも存在しない。かつて経産省が1000億円前後の補助金で同社を日本へ誘致しようと検討していたこともある。だが、年間設備投資額3兆円のTSMCが、そんなはした金で大手顧客のいない日本に興味を示すはずもなく「量産工場の誘致など無理に決まっている」「筑波に後工程のR&D拠点を誘致するのが精一杯だろう」などと筆者は考えていたものだ。

 今回の日経新聞の記事によれば、検討されているのは28/16nmプロセスの工場で、ソニーや大手自動車メーカー向けの需要を想定している、とのこと。にわかに信じがたい話だ。だが、仮に経産省が数千億円規模の補助金を用意するとしたらどうだろう。顧客のニーズもあって工場建設資金まで日本政府が出してくれるのであれば、TSMCにとっても悪い話ではないはずだ。

 TSMCが日本に量産工場を本当に設立するのか、そのために日本政府がどれくらいの補助金を出すのか、この記事を書いている現時点では分からない。だが、実は筆者が最も気にしているのはそういうことではなく、次の2点である。

1.政府の「本気度」はどの程度か?

 1点目は、経産省や日本政府の半導体に対する「本気度」である。経産省は半導体/デジタルインフラ/デジタル産業の今後の政策の方向性について検討するため、「半導体・デジタル産業戦略検討会議」2021年3月に設置し、6月4日に「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめて公表した(「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめました[METI/経済産業省]

 これには、5G/ビッグデータ/AI/IoT/自動運転/ロボティクス/スマートシティ/DXなどのデジタル社会を支える上で、半導体が重要基盤であり安全保障にも直結する死活的に重要な戦略技術である、と冒頭部分で述べている。

 つまり経産省は、半導体技術が今後ますます重要になるのに、日本の半導体メーカーが世界の潮流から取り残されようとしていることに強い危機感を持っていることが分かる。

 また自民党は2021年5月21日、甘利明氏を会長に、安倍晋三前首相と麻生太郎副総理兼財務相を最高顧問に据えて「半導体戦略推進議員連盟」を発足させた。6月3日には、国内の半導体工場の新増設を国家事業として進めるため、米国や欧州に匹敵する規模の予算措置を早急に講ずべきだとの決議を菅義偉首相に提出している。失礼を承知で申し上げれば、半導体の「は」の字もご存じない政治家の先生方が唐突にこんな動きを始めたのは、米国バイデン政権から「日米共同で半導体サプライチェーンを形成するぞ」「中国には半導体の最先端技術を渡すな、米国に従え」という強い要請があったからだろう。米国にとって半導体は極めて重要な技術であり産業なので、これを維持させ成長させるためには、ありとあらゆる手段を講じるはずだ。TSMCをアリゾナに誘致したのもその一環だが、一方で「Intelにもファウンドリー事業で頑張ってもらう、設計だけでなく製造でも半導体業界のリーダーであり続けることを求める」として、TSMCアリゾナに勝るとも劣らない規模のファウンドリー工場の建設に米国政府が国策として支援する、という念の入れようだ。その米国が日本に協力を求めてきたのは「半導体製造装置や材料の分野でちゃんと米国を支援しろよ」という本音によるものだ。実際に東京エレクトロンがIntelの最先端プロセス開発に深く関与するなど、密接な関係の事例も存在する。決して日本の半導体産業にエールを送ることが目的ではない。

 しかし日本の政治家の先生方も、決してお人好しの集団ではない。「日本も半導体産業にテコ入れしないとマズいのではないか」と気付かれたようで、「米国を支援する前に日本はどうあるべきか」という会合を持ち始めた。米中はもちろんのこと、韓国、台湾、欧州などの国と地域が半導体産業に対する支援策を打ち出している中、日本独自の半導体産業政策・戦略が検討されるのは、極めて重要なことである。動機やキッカケはともかく、経産省も日本政府も半導体産業には「本気で向き合っている」と見てよいだろう。

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