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» 2021年06月15日 11時30分 公開

今こそ、日本の大手電機各社は半導体技術の重要性に気付くべき大山聡の業界スコープ(42)(2/2 ページ)

[大山聡(グロスバーグ),EE Times Japan]
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2.国内メーカーは半導体産業をどう捉えているのか?

 2点目は、日本の半導体産業における民間各社の態勢である。すでに述べたように、半導体製造装置や材料の分野においては強い存在感を持ち、グローバルにビジネスを展開している日系企業がたくさんいる。しかし肝心の半導体メーカーはシェアを落とし、事業の存続すら危ぶまれる企業が多いのが現状である。

 下図は、2020年の世界半導体市場を製品別に示したもので、メモリとロジックがそれぞれ27%と大きな比率を占めている。だが、日系企業の衰退はこの2分野において特に著しい。メモリでは日系企業としてキオクシアが唯一健闘しているが、株式上場の目処が立たずに苦しんでいる。ロジックではソシオネクストとルネサス エレクトロニクスが事業展開している。だが、いずれも同世界市場で20位以内に入れるかどうか、という存在に過ぎない。古い話で恐縮だが2007年、当時のロジックにおける最先端プロセスだった32nmプロセスの共同開発を東芝、富士通、NECエレクトロニクス(現ルネサス)の3社で協議したことがあった。ただ日本のロジックプロセスはこの時点から進化が止まったままだ。その後NECエレクトロニクスはルネサス テクノロジと統合しロジック事業をリストラ。先端ロジックの主力工場だった鶴岡工場はソニーに売却した。富士通はロジック設計部隊をソシオネクストに移籍させて三重工場はUMCに売却した。東芝はしばらく単独で頑張っていたが、大分工場の300mmラインをソニーに売却し、2019年には先端ASIC事業からの撤退を決めた。

2020年世界半導体市場(製品別)売上高。売上高の合計は4404億米ドル WSTSデータよりGrossberg作成

 つまり5G/ビッグデータ/AI/IoT/自動運転/ロボティクス/スマートシティ/DXなどに不可欠なロジックICを製造しようにも、日本には工場が存在しないのだ。

 5nmを量産するTSMCにとって、28/16nmなどレガシー技術に過ぎない。しかし32nmで進化を止めた日本から見れば「超最先端技術」であり、経産省が同社を必死で誘致しようとしているのもこうした事情が背景に絡んでいる、とみて間違いないだろう。

 デジタル社会のけん引役である米国のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)各社は、自社のITサービス強化/差別化を目的にロジックICの内製を強化している。外販されている汎用プロセッサでは差別化が困難で、各社とも必死でロジック設計力を強化しているのだ。当初は「製造はTSMCに任せればよい」というスタンスだった。米国内での製造にこだわった米政府がTSMCを誘致し、さらにはIntelにもファウンドリー事業強化を支援するという。中国のBATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)各社も、自社内でのロジック設計力強化に必死で、中国政府も米国と同様にTSMCを誘致しようとさまざまな画策を行っている。ロジックICの設計も製造も極めて重要であることを認識していれば、必然的にこのような動きになるのだ。

 では日本のデジタル社会は誰がけん引するのか。日系大手ITベンダーのNEC、富士通、日立各社は、自社のITサービス強化のためにロジックICを内製化しようとは考えていないのだろうか。かつて、世界ASIC市場の首位争いを演じていたNECと富士通は、社内に巨大なASIC需要があり、ASIC技術こそが差別化に必要だ、と主張していた。果たして今はどうなのだろうか。当時の気骨はどこへ行ったのか。ちなみに日系自動車メーカーの中には、今後の差別化戦略に半導体が不可欠として、ロジックICの内製化に乗り出す企業があるようだ。

 日本の大手電機メーカー各社は、かつてはいずれも巨大な半導体事業部を社内に抱え、自社製品の差別化に半導体技術を駆使していたはずだ。その重要性が今後ますます高まる、という見通しの中で、それでも半導体を毛嫌いしたままやり過ごすつもりなのだろうか。巨大な半導体工場を作ってロジックICを量産しろ、と言っているのではない。来たるデジタル社会において、自社の経営戦略をどうするのか、差別化のためにロジックICの設計に取り組むべきではないのか、と問い掛けたいだけだ。日本の大手電機メーカー各社は、過去のしがらみにとらわれずに、半導体技術の重要性に気付くべきである。仮にTSMCの日本誘致が実現するのであれば、その生産能力を日系企業同士で取り合うくらい需要が活性化してほしいものだ。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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