Pat Gelsinger氏は、Intelの新CEOに就任して以来、次々と手を打っている。本稿では、Gelsinger CEOが就任後のわずか5カ月で、打つべき手を全て打ったこと、後はそれを実行するのみであることを示す。ただし、その前には、GF買収による中国の司法当局の認可が大きな壁になることを指摘する。
2021年に入って米国では、1月20日にJoe Biden氏が第46代大統領に就任し、2月15日にPat Gelsinger(パット・ゲルシンガー)氏がIntelの8代目CEOに就任した。その後の動向を表1にまとめてみた。
Biden政権は、米国での半導体製造の強化策を打ち出し、実行しようとしている。一方、IntelのGelsinger CEOは3月23日に、「Intel Unleashed: Engineering the Future」を発表した。その概要は次の通りである。
これに対して、筆者は、Intelの戦略は「絵にかいた餅」であり、かなり悲観的な見方をしていた。というのは、IntelにTSMCのようなファウンドリー事業はできないし、いまだに10nmプロセスの量産も満足にできない状態では、いくらIBMの協力を得たとしても、7nmの開発と量産は不可能だと思ったからだ。
日本では、酷暑のコロナ下で東京五輪が始まったが、42.195Kmを走るマラソン(北海道開催)では、いったん先頭集団から脱落したら、再び追い付くことは難しい。
それと同じで、半導体の微細化競争も、いったん脱落したら、2度とトップに追い付くことができない。少なくとも過去に、追い付いた例を見たことがない。そして、現在微細化のトップを突っ走っているTSMCは5nm(Intelの7nmに相当)を量産中で、3nmのリスク生産がスタートし、2nmの装置・材料選定が本格化している。
このような現状を考えると、Intelが最先端の微細化やファウンドリー事業で、TSMCと同じ土俵で戦えるとは、とてもじゃないが、無理だと思ったわけである。
ところが、Intelと協業するIBMが2021年5月6日、世界初となる2nmの半導体製造に成功したと発表した(ニュースリリース)。続いてWSJ(Wall Street Journal)が2021年7月15日、Intelが、GLOBALFOUNDRIES(GF)を約300億米ドルで買収する交渉を進めていると報じた(関連記事:「IntelがGF買収で交渉か、WSJが報道」)。
この報道には大いに驚くとともに、Intelに対する認識が大きく変わった。そして、がぜん、Intelの戦略が実現性を帯びてきた。もしかしたら、2016年以降、10nm立ち上げに失敗し続けてきたIntelの逆襲が始まるかもしれないと思うようになった。
本稿では、まず、なぜ当初、Intelがファウンドリー事業でTSMCとは戦えないと思ったのかを論じる。次に、IntelがGFを買収すると何が期待できるかを説明する。その上で、Gelsinger CEOは、就任後の5カ月で、打つべき手を全て打ったこと、後はそれを実行するのみであることを示す。ただし、その前には、GF買収による中国の司法当局の認可が大きな壁になることを指摘する。
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