スパイキングニューラルネットワーク(SNN)向けニューロモーフィックAI(人工知能)アクセラレーターの開発を手掛けるオランダの新興企業Innateraが、同社にとって初となるチップを発表した。チップの測定性能や、アーキテクチャの詳細についても明らかにしている。
スパイキングニューラルネットワーク(SNN)向けニューロモーフィックAI(人工知能)アクセラレーターの開発を手掛けるオランダの新興企業Innateraが、同社にとって初となるチップを発表した。チップの測定性能や、アーキテクチャの詳細についても明らかにしている。
また同社は、CadenceとSynopsysの共同創設者であるAlberto Sangiovanni-Vincentelli氏を、取締役会長として迎え入れたことも明かした。業界のベテランである同氏は現在、カリフォルニア大学バークレー校の教授を務めている。
SNNは、脳生物学をベースとしたニューロモーフィックAIアルゴリズムの一種で、電気信号の中のスパイクタイミングを利用して、パターン認識タスクを実行する。SNNは、主流派のAIアルゴリズムとは全く異なる構造を持つため、アクセラレーション専用のハードウェアが必要だ。しかし一般的に、センサーエッジアプリケーション向けに、消費電力量やレイテンシの面で非常に大きなメリットを提供することができる。
例えばフランスの企業Propheseeのような、SNNアルゴリズムやハードウェアを手掛けるメーカーの大半は、画像やビデオストリームをターゲットとしている。しかし、Innateraが焦点を当てている分野は、オーディオ(音声/言語認識)や、ヘルスケア(バイタルサイン監視)、レーダー(例えば、プライバシーを保護した高齢者用転倒センサーなどの、コンシューマー/IoT[モノのインターネット]ユースケース向け)である。
Innateraのマーケティング/ビジネス開発部門担当バイスプレジデントを務めるMarco Jacobs氏は、米国EE Timesのインタビューに応じ、「これらのセンサーは、似たような画像データを幾つも取得するのではなく、時系列データを取得する。当社のアレイは、特に時系列データの処理に優れており、技術的にも非常にうまく適合している。また、市場の側面から見ると、この分野には非常に興味深い数々のアプリケーションが存在しているが、それに対応するソリューションがほとんどない」と述べている。
この他にも、これらの3つの用途に共通しているのが、センサーノードでの処理が必要なために、パワーエンベロープに余裕がないという点だ。Innateraが実施した試験では、各スパイクイベント(入力データに反応して各ニューロンが発火)に必要なエネルギー量は、1pJ(ピコジュール)未満だったという。同社によれば、実際にはTSMCの28nmプロセスで200fJ(フェムトジュール)を下回ったとしている。これは、生体ニューロンやシナプスが使用するエネルギー量に近づきつつあるといえる。InnateraのCEO(最高経営責任者)であるSumeet Kumar氏によると、オーディオキーワードスポッティング向けアプリケーションでは通常、推論当たりに必要とされるスパイクイベントの数が500以下であり、電力損失はミリワット以下だという。この場合、ニューロン発火のひとかたまり(クラスタ)が、音声の中の異なる音素を示している。
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