Innateraのスパイキングニューラルプロセッサは、スパイキングニューロンとシナプスの並列アレイを利用することにより、精密な時間ダイナミクスで連続時間SNNを加速させる。このデバイスは、データの処理方法に関する時間の概念を取り込むことが可能なSNNの能力を利用するために開発された、アナログ/ミックスドシグナルアクセラレーターである。
Innateraのコンピューティングファブリックの重要な側面の1つとして、プログラマビリティが挙げられる。プログラマビリティが重要視される理由は、2つある。
1つ目は、異なる種類のSNNをチップ上でプログラミングできるという点だ。ニューロンは、柔軟な方法で接続する必要がある。脳は、非常に複雑なニュラルネットワークトポロジを使用して、物事を効率的に進める。そのためには、ニューロン間を複雑に接続して、それをシリコンで再現しなければならない。
2つ目は、性能の最適化である。SNNでは、情報をビットとして表示するのではなく、正確なタイミングのスパイクとして表示する。スパイクのタイミングを非常に微細なレベルで操作することにより、データに関する洞察を引き出さなければならない。このため、ニューロンと、ニューロン間の接続(シナプス)は、複雑なタイミング行動を示すことになる。これらの行動を、InnateraのSDK(ソフトウェア開発キット)で調整することにより、性能を最適化することができる。
Innateraは、「当社のチップは、アナログミックスドシグナルまたは”デジタルアシストアナログ”である」と説明する。ニューロンとシナプスをアナログシリコンに実装することにより、超低消費電力を維持することができる。またアナログエレクトロニクスは、持続的なタイムネットワークを実現することが可能だ(デジタルエレクトロニクスの場合は、離散化が必要)。これは、SNNにとって非常に重要である。というのも、SNNには本質的に時間の概念があり、一定期間にわたって特定のステータスを保持できるようにする必要があるためだ。
Kumar氏は、「アナログ領域では、これを非常に簡単に実行することができる。ステータスを維持しなければならないという複雑性を、ネットワークトポロジーに移行する必要がないからだ。われわれがアナログ領域で実行するのは、そのようなステータス情報がもともと計算エレメントに保持されているためだ」と述べる。
チップ上の計算エレメント間や異なる種類のチップ間などにおいて、製造上の小さな不一致が生じると、アナログ領域でニューラルネットワークを正確に実行する上で問題が生じる可能性がある。Innateraのソリューションは、ニューロンをセグメントにグループ化するというもので、パス長やニューロンの数に適合するよう注意深く設計されている。
Kumar氏は、「セグメントは基本的に、アナログ回路の中に一般的に存在する非理想性を最小化しながら、その優れた点を最大限に活用できるよう設計されている。これは全て基本的に、セグメント内のニューロンが確実に決定的動作を示し、周囲のニューロンと同じ方法で機能できるようにするためだ」と述べている。
異なる種類のチップ間に不一致があると、同じトレーニングを受けたネットワークが実地でデバイスに展開された場合に、問題が発生する可能性がある。Innateraは、この問題をソフトウェアで回避している。
Innateraが今回発表したチップのサンプル出荷は、2021年内にも開始される予定だ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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