産業技術総合研究所(産総研)は、「全方向形標準LED」の試作品を日亜化学工業と共同で開発した。全方向に可視波長全域の光を放射するLEDを用いており、従来の電球に代わる新たな標準光源として期待される。
産業技術総合研究所(産総研)計量標準総合センター物理計測標準研究部門の中澤由莉研究員と神門賢二主任研究員は2021年8月、「全方向形標準LED」の試作品を日亜化学工業と共同で開発したと発表した。全方向に可視波長全域の光を放射するLEDを用いており、従来の電球に代わる新たな標準光源として期待される。
照明光源は、明るさを示す指標として「全光束」が用いられる。この値は標準光源との比較測定によって決まる。その基準となる標準光源には、100年近く白熱電球形の標準電球が用いられてきたという。優れた光強度の安定性や再現性が得られるからだ。近年は、LED照明への置き換えが急速に進んでいる。このため、LEDを用いた標準光源が求められるようになってきた。
産総研と日亜化学工業は2016年に、可視波長全域をカバーする標準LEDの共同開発に成功している。ただ、この標準LEDは可視波長全域の光を前面に放射するのみで、背面を含む全方向に光を放射する照明光源の全光束測定には適していなかったという。
そこで今回、これまで培ってきた「高度な光強度安定化技術」と「スペクトル最適設計技術」をベースに、特殊な光学系を組み込むなどして、可視波長全域の光を全方向に均等に放射する全方向形標準LEDの開発に取り組んだ。
開発した全方向形標準LEDは、電球形LEDランプと同程度の大きさとした。また、内部に温度制御の機構を組み込み、発光部の温度を一定に保つための工夫を行った。これにより、点灯後に光強度が変動するのを小さく抑えることができるという。
例えば、8時間の点灯で光強度の変動は0.01%、点灯を複数回繰り返しても0.02%以下である。この特性は既存の標準電球に匹敵するという。また、周囲の温度変化(23℃±5℃)に対する光強度の変動も0.02%/℃と小さい。
開発した全方向形標準LEDは、光を後方に導くためのキャップ型光学系を組み込んでいる。これにより、口金方向を除き背面方向も含めた全方位へ光を均等に放射する配光を実現した。開発した全方向形標準LEDを標準光源として用い、複数の市販電球形LEDランプの全光束測定を行った。この結果、既存の標準電球を標準光源として用いた場合と同等の測定値が得られたという。
なお、今回開発した全方向形標準LEDの全光束値は約90lmで、一般電球40形相当の電球形LEDランプに比べると約5分の1である。これは放熱部品の大きさに制約があり、安定性や寿命を損なわないように、点灯電流を制限したためだという。今後は、点灯電流レベルに応じて放熱機構の最適化などを行い、実用化を目指す考えである。
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