筑波大学や高エネルギー加速器研究機構(KEK)、産業技術総合研究所(産総研)および、九州大学らの研究チームは、次世代の有機LED(OLED)材料として注目される熱活性型遅延蛍光(TADF)について、電子の動きを直接観察することに成功し、発光効率が低下する原因を突き止めた。
筑波大学や高エネルギー加速器研究機構(KEK)、産業技術総合研究所(産総研)および、九州大学の研究者らによる研究チームは2021年6月、次世代の有機LED(OLED)材料として注目される熱活性型遅延蛍光(TADF)について、電子の動きを直接観察することに成功し、発光効率が低下する原因を突き止めたと発表した。
TADF材料は、OLED用発光材料の1つとして2008年に開発された。分子設計を工夫すればレアメタルを利用しなくても、「光りにくい励起三重項状態」を、熱エネルギーによって「光りやすい励起一重項状態」に遷移させることができる。これにより、内部量子効率は、理論限界である100%に達するという。TADF材料は、薄膜構造を制御することで、外部量子効率の向上が期待されるものの、単一膜の励起三重項状態が発光しにくい理由については、十分な解明が進んでいなかった。
研究チームは今回、時間分解光電子顕微鏡(TR-PEEM)を改良して、TADF分子膜の励起電子ダイナミクスを直接観察することにした。TR-PEEMは、微量の光電子でも高い感度で検出することができる。実験では、TADF材料の1つである「4CzIPN」を用いて、構造が精密に制御された薄膜を作製し、観察を行った。
今回の実験では、「励起電子の生成」から「発光による失活」「濃度消光と呼ばれる特異な現象(無輻射失活過程)でのダイナミクス」を観察することに成功した。そして、励起電子によって生成された励起子が、自発的に解離することで長寿命の電子を生成。この電子がTADFの発光効率を低下させていることを突き止めた。
特に、TADF材料の発光効率が低下する要因となる無輻射失活過程について、より詳細な知見が得られたという。TR-PEEMによる励起電子のダイナミクス観察では、時間分解発光計測(TR-PL)によって得られた発光ダイナミクスと合致しており、発光計測では観測できなかった、励起子解離と呼ばれる「光らない」電子の存在も発見した。
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