産業技術総合研究所(産総研)は、神戸市立工業高等専門学校(神戸高専)や大阪有機化学工業(大阪有機)と共同で、透明/白濁の繰り返し耐久性を高めた「液晶複合材料」を開発した。調光ガラスの実用化に弾みをつける。
産業技術総合研究所(産総研)は2021年8月、神戸市立工業高等専門学校(神戸高専)や大阪有機化学工業(大阪有機)と共同で、透明/白濁の繰り返し耐久性を高めた「液晶複合材料」を開発したと発表した。調光ガラスの実用化に弾みをつける。
液晶と異方性高分子の複合材料は、生活温度付近において低温だと透明状態、高温では白濁状態に切り換わる機能を備えている。産総研と神戸高専、大阪有機は既に、液晶と異方性高分子が同じ方向に配列し、微細に相分離した複合構造を持つ高分子ネットワーク液晶(PNLC)を開発してきた。可視光の直進透過率で80%以上、太陽光の透過率で20%以上変化する調光性能を備えた材料である。ただ、実用化に向けては温度変化を繰り返した時の耐久性が課題となっていた。
今回は、大阪有機が改良した材料と神戸高専が提案する光学構造の設計指針および、産総研の光重合誘起相分離(PPIPS)技術を用い、耐久性と調光性能を両立させたPNLCの開発に取り組んだ。
開発したPNLCは、液晶と異方性高分子がそれぞれの領域を形成し、相分離した構造である。低温では液晶と異方性高分子が持つ側鎖が同じ方向に配列、全体として光学的に均一な構造となって透明状態となる。高温では液晶の方向が乱れ、光散乱によって白濁状態となる。特に今回は、異方性高分子が配向をしたまま架橋することで、網目構造化することに成功。これによって相分離構造の熱的安定化を図り、繰り返しの温度変化に伴う性能劣化を抑えることができたという。
研究グループは、試作した試料を用い透明/白濁の繰り返し耐久性の評価を行った。50℃で加熱5分と自然冷却5分をワンセットにして、温度変化を1000回以上繰り返し行った。この結果、架橋剤を添加して網目構造化した開発品は、1000回以上繰り返しても高温白濁時の透過率が、初期と同等の1%以下を維持していることが分かった。これに対し、網目化されていない従来構造だと、初期状態で高温白濁時に透過率は6%まで下がり、1000回繰り返すと10%程度になった。
研究グループは、「窓ガラスのメンテナンス保証期間(10年程度)に相当する回数で温度変化を繰り返しても持ちこたえる耐久性を達成、実用化のめどがついた」という。引き続き、コスト削減に向けた研究に取り組む予定である。また、後貼りできる柔軟性のある透明基材を用いた調光フィルムの開発なども計画している。
今回の成果は、産総研極限機能材料研究部門光熱制御材料グループの垣内田洋主任研究員や山田保誠研究グループ長と、神戸高専電子工学科の荻原昭文教授、大阪有機との共同研究によるものである。
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