さて、ここからは後半になります。後半は、このシリーズの検討で、私が漠然と感じてきたこと(『女子は理系が苦手は本当か?』『プログラミング的思考の教育方法とは?』)を、五月雨的にお話します。
前半でお話した「プログラミングを自らの意思で学びたいと考える小学生女子は、いない/絶望的に少ない」について考えてみたいと思います。
こちらは、以前掲載した、「大人になったらなりたいもの」の調査結果をグラフにしたものです。
ぶっちゃけ、女子の希望に、ITの職業 ―― 特にプログラマー志望が、影も形も出てこないです。
もちろん、ティーンの子どもたちは、詳細の職業について真剣に調べて考える機会もないと思うので、あまり参考になるとは思えませんが、少なくとも、ティーンエージャーの女の子にとって、プログラマーなんぞスコープ外であることだけは確かです。
最初にネタばらしをしてしまうようで恐縮なのですが、実は、プログラマーという仕事は、理系や文系の出身とはあまり関係がありません。
もちろん、専門の科学分野における計算をするプログラマーには、その専門分野の知識が必要となりますが、Webのデザインや、ゲーム作成などでは、デザイン力や、美的センスの方が、はるかに重要です。
しかし、ここからは「プログラマー=理系の職業」という世間の誤解を、誤解のままとして、まずは、ティーンエージャー女子と理系の関係について調査された論文(参考)からデータを引用させて頂きつつ、考えてみたいと思います。
日本における理系の女子(リケジョ)が少ないのは、統計を調べるまでもなく明らかです。2019年のデータでは、OECD(経済協力開発機構)の加盟国36カ国中、最下位という惨憺たる結果でした。
この理由については諸説ありますが、その一つとして、「理系出身者の職業は3K(きつい、汚い、危険)の傾向があり、女性がそれらの職業を避けてきた結果、『女子は理系が嫌い』と社会全体が思い込む(錯覚する)環境になってしまい、それが強化され続けている」、という考え方(以下「環境説」という)があります。
―― つまり、理系の女子が少ないのは、社会の思い込みと同調圧力のせい
という考えが、近年の定説です。
私が、嫁さんに「女の子のプログラミングへの興味が観測できない」という話をしたところ、嫁さんが、環境説に対するアンチテーゼを出してきました。名付けて、「プラレール仮説」です。
江端家では、2人の娘を、乳児の時から、性差を意識させないように育ててきました。もし娘たちが、いわゆる男の子向けの玩具や衣服を望んだら、それを与えることに決めていました。
しかし、結果的に、娘たちは、一般的に女の子が望むモノを望んでいました。少なくとも、プラレールの新幹線を買ってほしいとか、ミニカーを買ってほしい、とお願いされたことは、一度もありませんでした。
一方、私は、今でもプラレールを見るのが楽しいです。娘の学校の文化祭でも、鉄道研究部のNゲージのジオラマを楽しく見ていました。でも、確かに、嫁さんの言う通り、「レールの上を、模型の電車がグルグル回っているのを見ているだけ」というのは事実で、そして、この楽しい気持ちの理由を言語化できないのです。
今回、嫁さんと2人で、この気持ちに関して、力ずくの言語化を試みてみました。
いまひとつ、スッキリした感じの答えにはなっていませんし、こじつけ感も強いですが、一応、江端家の娘たちを使った実証実験の結果を反映したものにはなっています。そして、昭和のアナクロ的な考え『男は理系、女は文系』を支持するもの ―― 『環境説の否定』にもなってしまっています。
しかし、この仮説はどうにも気持ちが悪い。江端家の娘を使った実証実験結果と、環境説の両方を矛盾なく両立させる論はないものか、とネットを探してみたら、面白い説を見つけました。「ホルモン説」です。
つまり、男女のおもちゃの嗜好は、3歳くらいまではホルモンが支配していて、その後、自分自身の性の自覚によってホルモンが決定した性別を、自ら強化し始める、ということです。
そして、その後は、性別に対する社会の環境と同調圧力によって、性に対する思い込み ―― 例えば、『女子は理系が苦手』が、刷り込まれていく、という流れになる、というものです。
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