本シリーズでは、STEM教育の中でも特にプログラミング教育を取り上げてきましたが、やはり課題(ツッコミどころ)は満載です。それでも、いろいろと調べていくうちに、いくつかの光明も見えてきました。
今回から「STEM教育」を取り上げます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあり、デジタルやITの存在はますます大きくなっています。これからの時代、「デジタル=インフラ」として捉えることができなければ、生き抜くことができないと言っても過言ではありません。それを考えると、確かにSTEM教育は必須なのですが……。プログラミングの“酸いも甘いもかみ分けた”エンジニアとしての視点で、STEM教育を斬っていきます。⇒連載バックナンバー
最近、3年前に死去した父のことを、よく思い出します。
30年以上も前の話になりますが、当時大学生だった私は正月に帰省すると、父の車を借りて日帰りスキーに行っていました。ある年の年末、父が『スキーをやってみたい』と言い出しました。父は、久しぶりに帰省する息子と一緒に遊びたかったのかもしれません。
私が、「スキーは思っているより難しいが、本当に大丈夫なのか」と父に確認したところ、父は自信たっぷりに『テレビで見て大体分かった。大丈夫だ』と答えました。
スキーゲレンデに踏み入れた瞬間、父はいきなり転倒しました。そして、30cmの高低差の長さ5m程度の斜面を、一度も滑り降りることができませんでした。私は再現なく転倒し続ける父を抱えつつ、父が酸欠でチアノーゼになっているのを見た時、スキー場からの撤退を決断しました ―― スキー場滞在時間50分間という、最短記録でした。
帰りの車の中は気まずいもの ―― にはならず、チアノーゼから回復した父は明るく、そして、力強く、私にこう言いました。『うん、これで、大体分かった。次は滑れるようになるはずだ』と。
一体、どこから、そういう自信が出てくる? ―― と思いましたが、私は、そういう父が、結構好きでした。
それ以外にも ―― マニュアルを1ページも開かずに「リモコンの操作が分からない」と電話をかけてくる母に、私は、自分の手書きのマニュアルを作成して渡しました。
そして、「今、その操作の練習をやってみろ」という私に対して、父は「智一(私)が操作を書いてくれたんだろう? ならば、別に今練習しなくても大丈夫だ」と、自信満々に答えて、リモコンに触れようとすらしませんでした。
しかし、その後も、「テレビの電源が付かない」「ブレーカーが上がった」「食洗機が動かない」「風呂の湯の温度が変えられない」と泣きついてくる母に、本当にイライラさせられました。
江端:「マニュアルに書いてあっただろう?」
母:「あのマニュアルは難しくて分からんがね」
江端:「どの部分が分からんのだ?」
母:「一回も読んでいないから分からんがね」
江端:「一回も読んでいないのに、どうして『難しい』と分かるんだ!」
と、私がキレるところまでが、お約束でした。
なお、これらの私の原体験が、「デジタル時代の敬老精神 〜シニア活用の心構えとは」の記事や、こちらの調査結果に色濃く出ています。
こんにちは、江端智一です。
今回は、STEM教育シリーズの最終回になります。今回の前半は、民間の子ども向けプログラミング教室へのインタビューの結果を報告します。後半では、このシリーズの検討で、私が漠然と感じてきたこと(『女子は理系が苦手は本当か?』『プログラミング的思考の教育方法とは?』)を、五月雨的に話していこうかと思っています。
実は、この連載では、文部科学省、教育委員会、小学校の校長先生などに、EE Times Japan経由でインタビューを申し入れてきたのですが、『忙しい』を理由に全部断わられてきました。そして、その『忙しい』は今なお継続中のようです ―― 不自然なほど、長く『忙しい』が続いているような気がしないでもありませんが。
それはさておき。
この連載のことを知ったご近所の方から、『民間の(×学校の)プログラミング教室について、ざっくり教えてほしい』という依頼を受けました。「学校へのインタビューができないなら、民間で調べるのもアリかな」と思い、早速調べてみることにしました。
このコラム「“手作りのラズパイ教室”に見るプログラミング教育の縮図」を書いた時、私は『民間のプログラミング教育というのは、それほど流行っていない』と結論付けています。
そのコラムをリリースした時点では、本当に「子ども向けのプログラミング教室」は、それほど多くはなかったのです。それから4カ月後の今、Googleマップで、最寄りの駅(普通停車駅)の周辺を調べた私は、ビックリしました。
駅前に、4つものプログラミング教室が『乱立』している ―― この少子化絶賛の最中にあって。
それは、バブル期の駅前留学や、80年代の習字、ピアノ、そろばん、そして学習塾を思い起こさせる風景でした。
今回、この4つのプログラミング教室の全部にインタビューをしてきました。以下に概要を記載します。
基本的に、プログラム言語としてScratchから入る点は、どこも同じです(Scratch言語については後述します)。また簡易ロボットなどを用いているところはありませんでした*)。これは、ロボットを含める教材を、教える講師を確保できないからだろうと思います。
*)関連記事:「“手作りのラズパイ教室”に見るプログラミング教育の縮図」
4つの教室で使用しているハードウェアは、タブレット(iPad):1と、パソコン:3に分かれました。
ちなみに、今、公立の小中学校で「1人1台」は、ほぼ達成されているようです(全国の自治体の96.1%)。現時点で使用されているOSは、Chrome OS 40.1%, Windows 30.4%, iOS 29.0%となっています。
ハードウェアは、iPadがトップシェアの28.1%で、その後ろに、Lenovo, NEC, HP, Dynabookと続きます(正直なところ、NECって、まだパソコン売っていたの?と驚いてしまいました。NECは、法人営業では、まだまだ強いということでしょう)
プログラミング教室は、コロナ禍の中であっても、基本的に教室で開催されているようです。リモート授業もあるようですが、パソコンでプログラミングしながら、同じパソコンでリモートから指示をするのは、教える側も教わる側も、難しいのだろうと思います。
費用(月謝、設備費)は、バラバラですね。大体毎週1時間で、1万円/月が最安値で、諸経費入れると、その2倍以上というところもあります。回数単位で比較してみると、学習塾よりはかなり高めであると言えます。
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