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ハードランディングは何としても避けたい ――続・2022年半導体市況展望大山聡の業界スコープ(49)(1/2 ページ)

今後の半導体市況について語るのは無謀かもしれないが、着目すべき点や留意事項などについて、整理しておくことはそれなりに意味があるだろう。ここでは、いくつか気になる記事やデータを参照しながら、コロナ禍における影響について考察してみたいと思う。

» 2022年01月20日 11時30分 公開
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 本連載の前回記事(2021年12月公開)で筆者は、「半導体流通の問題が解決されれば、仮需の実態が明らかになる」「2022年半ばに市況の潮目が変わるかも」と私見を述べさせていただいた。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による市況の混乱が落ち着いてくれれば、もう少し見通しが良くなると思われる。だが、現時点では再び感染が拡散しているありさまで、産業や経済活動の混乱は当面、世界中で継続するものと思われる。この状況下で今後の半導体市況について語るのは無謀かもしれないが、着目すべき点や留意事項などについて、整理しておくことはそれなりに意味があるだろう。ここでは、いくつか気になる記事やデータを参照しながら、コロナ禍における影響について考察してみたいと思う。

「不足」とは無縁のメモリ

 まず気になったのは、EE Times Japanでも掲載された「中国のロックダウン、DRAM供給停止を招く恐れも」という記事だ。中国西安市がCOVID-19感染拡大の影響を受け、2021年12月23日にロックダウン(都市封鎖)に踏み切ったことで、同市のSamsung Electronics(以下、Samsung)のNAND型フラッシュメモリ工場(前工程)とMicron Technology(以下、Micron)のDRAM工場(後工程)が減産を余儀なくされている、とのことである。

 Samsungにとって西安はNANDフラッシュの主力工場の1つなので、トップシェアを誇る同社の供給量に変動があれば、需給バランスにも影響を与える可能性があるだろう。しかし現時点で同社から具体的なコメントはなく、市況への影響は未知数のままである。

 Micronの西安工場はパッケージングを行う後工程を担当しているが、こちらもメーカーからの具体的なコメントは出ていない。ただしパッケージングはOSAT(半導体後工程受託製造)企業など外部への委託も比較的容易なので、市況への影響は限定的ではないか、と筆者は考えている。

 ここで改めてメモリ市場の動向を見てみると、DRAM市場規模は2021年11月までの実績ベースで前年比41.4%増、製品単価は1年間で26%上昇と、好調に推移してきた。ただし単価動向は2021年7〜8月をピークに下降局面に入っており、市況はすでにダウンサイクルに入っているように見受けられる。

 一方のNANDフラッシュの市場規模は同11.0%増、製品単価は1年間でわずか2%上昇であり、DRAMに比べるとやや盛り上がりに欠ける市況であった。単価動向はこの1年間ほとんど変化が見られないだけでなく、2019年4月以降30カ月以上にわたって実質的な横ばいが続いている(データはいずれも世界半導体統計[WSTS]から引用)

 前回記事でも述べた通り、2021年は1年間にわたって半導体不足が問題視されていたが、それは主にメモリ以外の市場においてであり、DRAM市場でもNANDフラッシュ市場でも不足問題は発生していない。その証拠に両製品とも単価動向は極めて安定しており、特にNANDフラッシュ市場においては不自然なほど単価の変動がみられない。ここで興味深いのは、2021年12月20日に行われたMicronの決算発表である。同社の増収増益振りが注目を集めたが、期末在庫日数を計算してみると、3カ月で30日から35日に増加していることが分かる。季節要因から考えれば、8月末よりも11月末の方が在庫水準は低くなるはずだが、そうではなかった。「供給過剰にならないように調整しているのかな」などと考えるのは筆者だけではないだろう。ダウンサイクルに入ったようにみえるDRAM市場、不自然なほど単価が変動しないNANDフラッシュ市場。いずれも供給側が意図的に市場をコントロールしようとしている、という前提で考えると、「中国のロックダウン、DRAM供給停止を招く恐れも」という記事の見出しは、供給側の意図が含まれているように思えてならないのだ。

 「考え過ぎだ」というご指摘をいただくかもしれないが、メモリ市場はベンダーもユーザーも寡占化が進んでおり、特にベンダー側の供給情報にはそれなりの重みを伴うので、注意深く分析する必要があるだろう。メモリ市況に関しては、需要の急速な拡大が見込めない限り、当面は小康状態が継続すると思われる。

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