広島大学は、発光量子収率が最大80%の赤色シリコン量子ドット(SiQD)を合成することに成功、これを用いたSiQD LEDも開発した。さらに、高効率化に必要となる「化学的デザイン」と「物理的デザイン」の数値化に成功した。
広島大学の理学研究科大学院生(博士課程前期修了)である小野大成氏と自然科学研究支援開発センター(研究開発部門)の齋藤健一教授らによる研究グループは2022年1月、発光量子収率が最大80%の赤色シリコン量子ドット(SiQD)を合成することに成功したと発表した。これを用いたSiQD LEDも開発した。さらに、高効率化に必要となる「化学的デザイン」と「物理的デザイン」の数値化にも成功した。
量子ドットは、発光性の半導体ナノ結晶で、粒子の大きさは数ナノメートルである。粒子サイズにより、フルカラーで発光し発光効率も高い。発光幅が20〜40nmと狭く、有機ELに比べ色域は3〜4倍も広い。しかも、溶液プロセスのため低温、大気圧でデバイスを製造することができる、といった特長がある。
このため、タブレット端末や大画面TVなどで「量子ドットディスプレイ」の搭載が始まっている。ただ、本格的に普及するには課題もあるという。例えば、「現行の量子ドットは、発光量子収率が高いものの、インジウム系やカドミウム系、鉛系などの重金属を用いている」ことや、「安全で安心なSiQDは、重金属を用いたものに比べ発光効率が低い」といった点だ。
研究グループはこれまで、「三原色発光するSiQD」や、「白色発光するSiQD」「青色SiQD LED」「コストを380分の1に低減できるSiQDの製造法」などを開発してきた。そして今回、発光量子収率が最大80%の赤色SiQDを合成し、これを用いて赤色SiQD LEDを開発した。
実験ではまず、出発材料となる水素シルセスキオキサンを焼成し酸処理することで、表面が水素で覆われた直径3nmのSiQDを合成した。これをコアにして、表面をリガンドで化学修飾し、最終生成物となるデシル基修飾のSiQDを合成。これにより、波長680nmで赤色発光する溶液分散のSiQDが得られたという。
今回は、SiQDの表面化学修飾を「高温反応(150℃)」と「常温反応(ラジカル開始剤を使用)」の2種類で行った。こうして得られたSiQDの構造と物性を数値化し、効率発光のメカニズムとひもづけた。
この結果、発光の量子収率(PLQY)は大きく異なることが分かった。高温反応ではPLQYが19%だった。これに対し常温反応では54%となり、最大で世界最高レベルの80%に達したという。
実験では、2種類の化学修飾法で合成されたSiQDについて、合計11種類の手法を用いて化学構造や物理構造、リガンドの表面被覆率を解明した。これらの結果から、高効率発光の要因として4つを挙げた。「炭化水素基と酸素の表面被覆率はそれぞれ、約3%と約20%」「塩素基が重要(表面被覆率約4%)」「SiQDの結晶性は約90%」そして、「表面は引っ張り応力によってひずみ、その値は約1nNnm-2」である。
研究グループは、構造が明確になったSiQDを用い、溶液プロセスで赤色発光LEDを作製した。特に、常温反応SiQDを搭載したLEDは、高温反応のそれより20倍の発光強度となった。その要因として、「絶縁性リガンドの被覆率を3分の1にすると電流密度が10倍増え、塩素基によって非発光過程が2分の1に抑制される」ことを挙げた。
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