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NVIDIAによる買収、失敗すればArmは業績低迷か両社が英国・競争市場庁に反論(1/2 ページ)

英国政府当局が現在進めている、NVIDIAのArm買収に関する調査の一環として発表した文書によると、もしNVIDIAによる買収提案が失敗に終わった場合、Armはスタンドアロン企業として成長していく上で、重大な障壁に直面することになるという。

» 2022年01月25日 10時30分 公開
[Nitin DahadEE Times]

 英国政府当局が現在進めている、NVIDIAのArm買収に関する調査の一環として発表した文書によると、もしNVIDIAによる買収提案が失敗に終わった場合、Armはスタンドアロン企業として成長していく上で、重大な障壁に直面することになるという。

 29ページに及ぶこの文書は、英国政府が2021年11月に英国の競争市場庁(CMA:Competition and Markets Authority)にさらなる調査の実施を指示したことに対し、Arm/NVIDIAが共同で回答した内容を詳細に記している。この中で強調されているのが、「Armは、もしNVIDIAからの投資を受けられない場合、データセンター市場において成長を遂げ、Intelや既存のx86メーカーと競争していく上で、ひどく不利な立場に置かれることになる」という点だ。また、Armは現在、台頭するRISC-Vの競合メーカーとの厳しい競争に直面していることを指摘しながら、「なぜ株式公開が非現実的なのか」という点についても説明されている。

 さらに、「Armは、ソフトバンクの投資が間もなく終わることから、現在岐路に立たされている状況にある。このため、ArmにとってNVIDIAによる買収は、Armエコシステムを拡大/強化することで、英国や全てのArmライセンシーにメリットを提供することが可能になる一世一代のチャンスだ」と指摘している。

「なぜ株式公開が非現実的なのか」

 Armは、IPO(新規株式公開)の選択肢を否定する中で、「資本市場では短期的な売上高成長や収益性に注力することが求められるため、株式公開によってわれわれの投資拡大やイノベーションなどの能力が抑圧されることになる」と文書の中で述べている。

 同文書では、「ソフトバンクは、2019年と2020年初頭にもIPOを検討していたが、必要な投資利益率を確保できないとの判断から却下することになった。ArmのライセンシーであるAppleやQualcomm、Amazonなどは、売上高/利益率が急激に伸びただけでなく、市場価値も飛躍的に上昇したが、その一方でArmは近年、売上高が比較的横ばいだった上、増大するコストや利益率の低下など、創設30年の公開会社として、もたらされるさまざまな難題に耐えているという状況だ」と述べている。

 「資本市場はArmに対し、価値を最大化すべく、コスト削減などの重大な戦略変更を決断することを期待している」(同文書から)

 「さらに現在、Armがもともと参入していた市場であり最大の収益源でもあるモバイル市場が、飽和状態にある」(同)

データセンター市場/PC市場への参入、単独では「非常に難しい」

 「ソフトバンクがArmに投資する上でのターゲットに定めていた、データセンター市場とPC市場は、どちらも参入が非常に難しい。データセンター/PC市場の既存のx86メーカー(IntelとAMD)は、開発者やソフトウェア、システム、周辺機器などの確立されたエコシステムからメリットを享受しているという点で、Armとは異なっている。またこれらは垂直統合されており、複数レベルの技術スタックから生み出される利益を享受することができるため、大規模な研究開発投資を行うことが可能だ」(同)

 このため、Armのように、IPのみのライセンスモデルを手掛けている競合メーカーは全て、エコシステムや経済面で非常に不利な立場にある。さらにArmには、システム構築に関する専門知識や、ソフトウェアエンジニアリングの他、IntelやAMDなどのx86メーカーの研究開発リソースなども持っていない。最も楽観的な予測でさえ、「スタンドアロン企業であるArmは、投資する上で必要な売上高を確保しつつ、実績ある既存のx86メーカーと面と向かって競争していくことができないだろう」との見方を示している。

 「Armは現在のところ、データセンター市場の限られた参入枠をなんとか確保できているにすぎない。主にAmazonにライセンス供与しているが、Amazonは自社用にカスタムチップを製造している。データセンター向けの商用Arm CPUを提供しているのは、スタートアップのAmpere Computingのみだ」(同文書から)

 さらに同文書において、「PC市場も同じような状況にある」と指摘する。Armの設計は、市場参入の面で重大な欠如があるため、2社のPC顧客企業が、「次世代SoC(System on Chip)ではArmのコアを採用せず、代わりに自社開発製品を使う予定だ」と述べているという。

 「Armは、ターゲット分野では優れたエンジニアリング能力を発揮する。しかし、スタンドアロンのIPライセンス企業としては、多くの資本へのアクセスがないため、Armにはスタンドアロンのライセンス供与企業として、自らの将来に影響を及ぼす可能性がある、スケールや範囲、経済などの面での制約が内在している」(同)

 「またArmには、株式公開企業として、売上高がまだ初期段階の事業に、十分な投資を行えるような財源がない。NVIDIAが特に懸念しているのは、これがArmにとってプレッシャーとなり、データセンター/PC市場の優先度を下げて、その代わりに同社の中核となるモバイル部門や成長の一途にあるIoT(モノのインターネット)事業部門などに注力するのではないかという点だ」(同)

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