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NVIDIAによる買収、失敗すればArmは業績低迷か両社が英国・競争市場庁に反論(2/2 ページ)

» 2022年01月25日 10時30分 公開
[Nitin DahadEE Times]
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買収実現なら、研究開発が加速

 文書では、NVIDIAが投資だけでなくデータセンター関連の専門技術も提供することができるという点についても議論されている。「Armには、スタンドアロンでIPランセンス供与のみを手掛ける企業としての限界があるということが、長年を経て明らかになってきた。ArmのライセンシーであるBroadcomやQualcommの他、また最近ではMarvellも、データセンター/PC市場への参入に挑戦しながら失敗に終わっている。単なるライセンシーという立場では、Armに対してデータセンター/PC CPU市場に必要な投資を行うよう指示したり、Armに必要とされるエコシステム構築関連の専門知識を提供したりすることはできない」(同文書)

 (NVIDIAとArmの)合併後の企業は、あらゆるインセンティブや能力を持つため、Armの研究開発投資を全面的に急増させることが可能だ。また、どの分野の投資から手を引くのかといった困難な選択肢に直面したり、顧客や競争の面でさらなる圧力にさらされたりすることもない。

 さらにNVIDIAは、SoC設計やソフトウェア、アクセラレーター、システム設計などの分野でも専門知識を提供することができるため、ソフトウェアやハードウェア、システムなどの開発者を、Armデータセンターエコシステムに引き付けることが可能だ。同文書によれば、「NVIDIAは自社のプラットフォームソリューションをArmに移植することになるため、開発者は、Armベースのアクセラレーターシステム用のコードを最適化できるようになる」という。

 さらに両社は、「ArmとNVIDIAの事業は、非常に補完度が高く、異なるレベルの半導体バリューチェーンに関与している。Armは主に、低消費電力のモバイルデバイス向けにCPU IPをライセンス供与しているが、NVIDIAはこの分野にはあまり積極的に取り組んでいない」と主張する。

IntelとRISC-Vの存在

 Armは以前、「規制当局の調査が長引くに伴い、ArmはIntelとRISC-Vに押される形になってきている」と述べていた。文書には「Intelは既に、クラウドサービスプロバイダーをターゲットとする重要顧客に向けたCPU IPの供給を巡り、Armと直接競争を繰り広げている。またIntelは、Qualcommが最初の主要顧客となっているファウンドリーサービス(IFS)も開始するなど、データセンター/PC市場におけるArmの取り組みに対して力強く挑戦している。Armは、Intelのように影響力を及ぼすことができるような成熟したエコシステムや大規模な研究開発リソースなどを持たないため、データセンター市場におけるArm最大のセールスポイントとして、“カスタマイゼーション”を掲げてきた。Armのデータセンター顧客はほんの一握りながら、今やカスタムx86 CPUを作ることができ、大規模なx86コードベースのメリットを享受することが可能だ」と記載されている。

 「またRISC-Vコミュニティーは、規制当局による調査の遅延を利用している。RISC-Vはここ1年間で、立て続けにさまざまな活動を展開しており、Armにとっては自動車やIoT、SmartNICなどの分野における脅威となっている。例えば、SiFiveは2021年6月に、RISC-Vベースの高性能CPU IP『P550』を発表した。これは、Armが同時期に発表した小型パッケージのCPU IPブロック(Cortex-A75)に比肩する。また、2021年12月に発表した次世代マイクロアーキテクチャ『P650』(2022年に販売開始予定)は、ハイエンドサーバの他、複数プロセッサコアの大規模アレイを必要とするさまざまなアプリケーションをターゲットとしている」(同文書)

 この他にも、欧米の規制当局がNVIDIA/Arm合併買収について詳細な調査を進める中で、さまざまなRISC-V関連の発表が行われている。

 文書では、英国規制当局が、「現在も続くArmの成功は、AppleやQualcommなどのライセンシー各社によって明示されている」と決めてかかっていることについても、議論を展開している。これに反して、「アーキテクチャのライセンシーは、ArmのCPU設計を使用していない。Armアーキテクチャのライセンシーは、主に米国の自社エンジニアリングチームを使って、独自のCPU設計を行っているのだ」と指摘する。

 「その結果、これらのアーキテクチャライセンシー各社が、Armのエンジニアたちと競争するという状況になっている。各社とも、独自設計を他の企業にはライセンス供与しないため、その成功によって市場の集中度が高まる。例えば、業界をリードするAppleのプロセッサ『Apple M1』は、Armではなく、Appleが設計を行ったのだ。Appleしか利用することができない、“捕虜”のような存在だといえる」(同文書から)

 「このため、アーキテクチャライセンシーは、ArmのIP実装ビジネスを脅かす存在となっている」(同)

買収拒否は「競争の妨げに」

 文書で両社は、「合併後の企業は、競争を阻害する能力を持たない」と主張した後、次のように締めくくっている。「合併反対派はArmの過去にロマンを抱き、Armの最も強力な競争相手を無視するか、軽んじている。しかし、もしArmが市場支配力を持っていたならば、相当な収益成長を遂げ、ばく大な利益を上げているはずだ」

 そして、合併を拒否することは、「競争を促進しないことになる」と続け、「むしろ、長い間x86が独占してきた分野に、Armが競争を持ち込むことを妨げることになるだろう。合併反対派が主張する別の結果は、ライセンスポリシーや投資について何の保証もなく、単独で利益を最大化するビジネスが生まれることになる。英国への投資も減り、Armのリソースも減り、イノベーションも減り、世界的な競争も少なくなる可能性が高いだろう」と述べている。

 Arm/NVIDIAの回答内容を記した全文はこちらで読むことができる。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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