ルネサス エレクトロニクスが、RFトランシーバー回路において、従来技術より大幅な省面積化を実現するとともに、低消費電力化やコスト低減、基板設計の容易化も可能にする2つの新回路技術を開発した。同技術を用いて22nm CMOSプロセスで試作したBluetooth Low Energy(LE)対応の2.4GHz RFトランシーバー回路は、電源系を含む回路面積を0.84mm2と世界最小(同社)にしたほか、消費電力も受信/送信時で3.6mW/4.1mWと低く抑えることに成功したという。
ルネサス エレクトロニクスが、RFトランシーバー回路において、従来技術より大幅な省面積化を実現するとともに、低消費電力化やコスト低減、基板設計の容易化も可能にする2つの新回路技術を開発した。国際固体素子回路会議「ISSCC 2022」(2022年2月20〜24日、米国サンフランシスコ)において発表したもの。
同社は、この技術を用いて22nm CMOSプロセスで試作したBluetooth Low Energy(LE)対応の2.4GHz RFトランシーバー回路を試作。受信部アーキテクチャ変更によるインダクター数の削減や、小面積、低電流ベースバンドアンプ、高効率D級アンプなどの技術も加え、電源系を含む回路面積を0.84mm2と世界最小(同社)にしたほか、消費電力も受信/送信時で3.6mW/4.1mWと低く抑えることに成功したという。同社は、「この技術はBLEのみならずRFトランシーバー全般に適用可能な技術だ。実用化に向けて開発を進めていく」としている。今回、同技術の開発担当者らに、その詳細を聞いた。
急速な拡大を続けるIoT(モノのインターネット)市場において、機器のさらなる小型、低コスト、低消費電力化への要求が高まっている。また、特に無線の下地のないメーカーからは基板設計の容易化を求める声も上がっているという。今回同社が発表した新技術は、こうした要求にこたえるもので、「広範囲にインピーダンスを可変できる整合回路技術(On-chip Antenna Impedance Tuner、AIT)」「キャリブレーション回路不要の基準信号自己補正回路技術(Self IQ-phase Correction、SIQC)」という2つの新技術を組み合わせる事で実現したとしている。
同社は、2015年に開催された「ISSCC 2015」において既に、従来は外付けで必要だった送受切り替えスイッチやインピーダンス整合のためのインダクター/キャパシターをオンチップにする「インピーダンス整合回路内蔵技術」を発表していた。ただ、使用する外付けアンテナや基板の設計によっては必ずしもインピーダンスが50Ωとはならないことから、結局外付けの整合回路が必要になる場合があるという課題が残っていたという。
今回、同社が開発したAITは、こうした外付けアンテナのインピーダンスのずれなども調整する機能をチップに内蔵する技術だ。
同社がISSCC 2015に発表した技術(下図左)では、2つの可変キャパシターや2つのインダクター(送信側と受信側)を内蔵し、その容量を切り変えることでインピーダンスを50Ωにするというものだった。今回、同社はこの従来回路にさらに2つの可変キャパシターを搭載(下図中央)することで、外付けアンテナのインピーダンスにずれがあるような場合などでも調整可能な広いチューニングレンジを実現した。
また、単純に容量を追加した場合、信号ロスの増大という問題が発生することになるが、同社は今回、送信側と受信側の2つのインダクターを同心円状に巻くように形成するという新たな構造を開発。そこで生じる相互誘導を活用することで、信号ロスの低減と、実効的な寄生容量の削減によるインピーダンス可変範囲の拡大を両立(下図右)、2015年に発表したものから約20%減と大幅な回路面積の削減を可能にしたとしている。
同技術によって、インピーダンスの不整合を表す電圧定在波比(voltage standing wave ratio; VSWR)は最大で6.8まで対応し、約25〜300Ωまでインピーダンスが可変であることを確認しているという。
開発担当者は、「通常、無線の設計において、『相互誘導』は悪さしかないものという認識で、極力相互誘導がないように設計に苦労するものだ。しかし、今回の技術はそれを逆手にとって活用したことで実現できた。コロンブスの卵的な発想だ」と説明していた。
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