前回に続き、「IEDM 2021」の講演を紹介する。今回から、ワイヤレス電力伝送の基本原理を前後編に分けて解説する。
半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」が昨年(2021年)12月11日〜15日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された。同年12月17日以降は、インターネットを通じてオンデマンドで録画済みの講演ビデオを視聴可能になった。
IEDMは12日に「ショートコース」と呼ぶ技術講座をプレイベントとして実施した。その1つである「Emerging Technologies for Low Power Edge Computing (低消費エッジコンピューティングに向けた将来技術)」を共通テーマとする6件の講演の中で、「Practical Implementation of Wireless Power Transfer(ワイヤレス電力伝送の実用的な実装)」が極めて興味深かった。講演者はオランダimec Holst Centreでシニアリサーチャー、オランダEindhoven University of TechnologyでフルプロフェッサーをつとめるHubregt J. Visser氏である。
そこで本講演の概要を前回から、シリーズでお届けしている。なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者のご理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
電力伝送の手法を伝送媒体によって区別すると、有線ケーブルによる(ワイヤード)伝送とケーブルのない(ワイヤレス)伝送が存在する。一般的な方法は有線のケーブルやコードなどによるワイヤードの電力伝送である。送電線(高圧ケーブル)によって電力会社は発電所から電力を工場やオフィス、住宅などに送る。工場やオフィス、住宅などでは同軸ケーブルや電源コードなどの有線媒体によって電気・電子機器に電力を供給する。
有線(ワイヤ)による電力伝送は、伝送効率が高く、堅牢性に優れ、長距離を伝送しやすい。ただし、ワイヤの重量と体積がかなりある(重くてかさばる)、引き回しに手間がかかる、といった短所がある。電気・電子機器が移動体(モバイル機器やウェアラブル機器など)の場合、こういった短所は無視できない。そこでワイヤのない電力伝送(ワイヤレス電力伝送)に期待がかかる。
ワイヤレス電力伝送は文字通り「線が無い」ので、伝送媒体(通常は大気)の重さはゼロであり、体積もゼロに等しい。そして原理的には、引き回しの手間が生じない。ただし伝送効率や安定性では有線ケーブルに劣り、距離の長い伝送には適していないことが多い。一方で技術的には未成熟であり、改良の余地がまだ少なくない。
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