筆者は世界半導体市場統計(WSTS)のデータを徹底的に分析してみた。その結果、「メモリ不況は当分来ない」という結論を得るに至った。そこで本稿では、その分析結果を説明したい。
昨年2021年の半導体メーカー各社の狂気的な設備投資額や各国・各地域の桁外れの補助金投入動向を見て、筆者は背筋が凍る程の恐ろしさを覚えた。昨年だけで、少なくとも12兆円が投資され、29工場の建設が着工されたという(図1)。
筆者は、こんなに半導体工場をつくったら、いずれ過剰供給になり、価格暴落と半導体不況がやって来るに違いないと思わざるを得ない。まだ上記29工場が稼働していないにもかかわらず、各種の半導体の出荷額は、Mos Memoryを除く全てが過去最高の出荷額を記録している(図2)。
そして気になるのは、全ての種類の半導体が、2020年以降(つまりコロナの時代になって)、それまでとは異なる傾きで出荷額が増大していることである。ここに、2021年に建設が着工された29工場の半導体が加算されたら、一体どうなってしまうのだろう?
筆者は特に、Mos Memoryの挙動が気になって仕方がない。というのは、この中に含まれているDRAMの需給バランスが崩れやすく、過去に価格が大暴落し、その影響が自分自身の身に及んだことが多々あるからだ。
例えば、1995年にWindows95の販売の期待感からDRAM価格が高騰し、翌1996年に暴落した。このとき筆者は日立製作所に在籍していたが、この煽りを食らって中央研究所からDRAM工場へすっ飛ばされた。また、2000年にITバブルのピークがあり、2001年にこれが崩壊した。日立は40歳&課長職以上の全社員に早期退職勧告を行い、旧エルピーダメモリやセリート(Selete/半導体先端テクノロジーズ)へ出向していた筆者は退職に追い込まれた。さらに、ウエハーリサイクルのベンチャーを立ち上げていた2008年にリーマン・ショックが起き、出資してくれていた会社が傾いたため、ベンチャーは頓挫し、筆者は無職・無給に陥ってハローワークに行くことになってしまった。
2018年のメモリバブル崩壊の時は、筆者は奇跡的に無事だった。しかし、メモリ不況は2019年に底を打ち、その後、2016〜2018年のメモリバブルの時と同じかそれ以上の傾きで再び出荷額を増大させている。もしかしたらこの先、再び出荷額がピークアウトしてメモリ不況がくるのではないか? そう思うと言葉にできないほどの不安を感じるのである。
しかし怖がってばかりいても仕方がない。筆者は、世界半導体市場統計(WSTS)のデータを徹底的に分析してみた。その結果、「メモリ不況は当分来ない」という結論を得るに至った。そこで本稿では、その分析結果を説明したい。ただし、この結論に対しては懸念材料もいくつかある。一つはIntelがEUV(極端紫外線)リソグラフィ適用のプロセスを立ち上げられるか、もう一つはプロセッサ用基板が確保できるか、そしてもう一つはロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響がどこにどのように出てくるか、である。特に最後の懸念については、戦争が早期収束するよう願わずにおれない。
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