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ロシアのウクライナ侵攻、“5G冷戦”の引き金にHuaweiとの関係深いロシア(1/2 ページ)

ロシアのウクライナ侵攻に対し、米国をはじめEU、英国など各国が制裁を実施した。各種禁輸措置に加え、ホワイトハウスはロシアに対して半導体関連の制裁も策定したが、この措置が通信領域において新たな種類の冷戦を引き起こすことになったのではないだろうか。

» 2022年03月29日 11時30分 公開
[Dan JonesEE Times]

 ロシアの大軍によるウクライナ侵攻によって、欧州においてこの75年間、目の当たりにすることのなかった大規模な戦いが再び生じることになった。都市部における野蛮な軍事行動が長く続いていることで、市民と兵士の両方で犠牲者は急速に増え続けている。

 欧米、すなわち米国とNATOの同盟国が、ロシアとの新たな世界大戦に踏み切る意図がない限り、そうした武力侵略に対処するための選択肢は多くない。そのため、「制裁措置」がウクライナ侵攻に対する現実的な、そして対立し合う同盟国を奮い立たせる唯一の対応策となる。

 石油からガス、銀行口座、豪華ヨットに至るまであらゆるものがEU、英国、米国によって凍結または封鎖された。明確な禁輸措置以外では、販売禁止を含む技術面の重い制裁も既に下されている。

 主な例として、ホワイトハウスはロシアに対して半導体関連の制裁を策定した。対象となるのは軍事用の半導体だが、ハイテク領域や通信分野にも影響がもたらされるだろう。この制裁は、既に効果を発揮し始めている。

 特筆すべき点として、世界最大の半導体メーカーTSMCが、既にロシアに対する半導体輸出を休止することに合意している。ロシアはスマートフォンから軍事機器に至るまであらゆるものに使われる半導体をTSMCに依存している。

ロシアにおける5Gの現状と展望

 EricssonとNokiaは、ロシアの通信事業者であるMobile TeleSystems(以下、MTS)、Megafon、Veonに対するインフラ供給を差し止めたことを既に認めている。2020年、ロシア最大のモバイル通信事業者であるMTSとEricssonは、5G(第5世代移動通信)の未来を視野に協業を開始し、既存のセルラーインフラ(2G、3G、4G)の大規模な近代化に取り組んできた。

 2021年4月、MTSはEricssonと共に、ロシアのサンクトペテルブルグに「5G Innovation Hub」を開設した。2社はEricssonが「5G-Ready」と呼ぶプライベートセルラーネットワークの展開を始めた。例えば、2021年10月には、工業用鉄鋼大手のPJSC Severstal向けに同ネットワークを開設した。

 ロシアによるウクライナ侵攻によって、今やそうした取り組みは全て望みを絶たれた。EricssonとNokiaはロシアとの全ての取引から手を引いており、当面は再開しない予定だという。

 実際、5Gに移行するために数十億ルーブルを支払ったロシアの通信事業者が、EricssonやNokia製の通信機器をはぎ取られ、交換する羽目になる可能性がある。現在、ロシアには大規模な商用5Gネットワークはなく、モスクワの“象徴的な場所”に14基ほどの5G装置が配備されているだけだ。

 米国と同様、ロシアには5Gインフラを生み出せる国内メーカーが1社もない。そのため、中国の大手ベンダーHuaweiが、ロシアにおけるあらゆる5G関連の取引の主要なサプライヤーとなっている。

 Huaweiは既にMTSと5G展開に着手しており、2021年4月にはモスクワの象徴的な場所での5G装置の運営が開始された。もともと、両社は2019年6月に5G関連の契約を締結していた。

 MegafonやVeonなどMTS以外のロシアの通信事業者は、現時点では5Gの試験段階にとどまっている。実際、Veon(自社のモバイル事業を“Beeline(最短コース)”というブランド名で展開している)はいまだ4Gのカバレッジに注力している。

 結果として、ロシアで5Gを展開する主要な通信事業者は、Huaweiからインフラを供給されているMTSになるはずだ。

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