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電磁波で電力を伝送するという夢の続き(後編)福田昭のデバイス通信(353) imecが語るワイヤレス電力伝送技術(7)(1/2 ページ)

後編では、ウイリアム・ブラウン(William C. Brown、1916年5月22日生〜1999年2月3日没)による実験の概要を説明する。

» 2022年03月29日 14時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]

 (ご注意)今回は前編の続きです。まず前編を読まれることを推奨します。



世界で初めての本格的なマイクロ波給電実験

 ワイヤレス電力伝送の歴史をたどる前後編の後編をお届けする。前編では、世界で初めての本格的なマイクロ波給電実験が1964年に実施されたことを述べた。米国の航空宇宙電子企業Raytheonにつとめるウイリアム・ブラウン(William C. Brown、1916年5月22日生〜1999年2月3日没)が、マイクロ波ビーム給電によって電動の無人小型ヘリコプターを浮揚させてみせた。

 後編では、ブラウンによる実験の概要を説明する。資料はブラウンが1965年12月に米国空軍に提出した報告書「Experimental Airborne Microwave Supported Platform」である。Raytheonは当時、「RAMP(Raytheon Airborne Microwave Platform)」と呼ぶプロジェクトをブラウンの主導によって進めていた。報告書から、RAMPは米国空軍とのコントラクトによって進められていたことが分かる。

マイクロ波ビームによって電力を伝送し、電動無人ヘリコプターを浮揚させるシステムの概念図[クリックで拡大] 出所:W.C. Brown、「Experimental Airborne Microwave Supported Platform」(Dec. 1965)

 この報告書によると、ブラウンは1963年5月にマイクロ波ビームによる空中送電(横方向の送電)を確認した。そして1964年7月には、重さが2.4kgの電動小型ヘリコプターを15mほど上昇させることに成功した。電動小型ヘリコプターは10時間ほど連続して浮揚し、実験終了後に目立った劣化はなかったとする。マイクロ波ビームはパラボラアンテナによって地上付近から垂直方向に照射した。

「RAMP(Raytheon Airborne Microwave Platform)」プロジェクトの概要(実験結果)。なお整流素子には、新日本無線の点接触型ダイオード「1N82G」を採用した[クリックで拡大] 出所:W.C. Brown、「Experimental Airborne Microwave Supported Platform」(Dec. 1965)

 ブラウンはもともと、マイクロ波ビームによって飛行体、さらには宇宙船を上昇させ、位置を制御するという構想を持っていたようだ。ブラウンが1959年5月に申請し、1963年12月に取得した米国特許「US3114517」にその一端がうかがえる。飛行体の推進力にはマイクロ波を電力とする電磁推進を考えていた。

地上からマイクロ波ビームによって物体(無人の飛行体あるいは宇宙船)を上昇させ、位置を制御するアイデアの概略図[クリックで拡大] 出所:米国特許「US3114517」
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