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半導体業界における中国との付き合い方を「いま」考える重要性大山聡の業界スコープ(52)(1/2 ページ)

中国と日本はどのように付き合うべきなのか。特に日系企業は今、何を考えるべきなのか。中国との付き合い方、考え方について、整理してみたい。

» 2022年04月12日 11時30分 公開
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 前回、ロシアによるウクライナ軍事侵攻の影響について書いたが、いまだに収束の目処は立たず、長期化への懸念が浮上している。唯一の朗報は、ウクライナ軍の善戦によってロシアの思惑通りに事態が進捗していないことだ。しかし、多数の犠牲者が出ていることを考えると、この戦争が一刻も早く終わってくれることを願うばかりだ。残虐な行為の一切を否定し続けるロシア政府のコメントには、怒りもあきれも感じる。そして、このロシアを支援する側に立とうとしているのが中国である。両国とも米国と対立している点で共通しており、「敵の敵は友」というスタンスかもしれない。そんな中国と日本はどのように付き合うべきなのか。特に日系企業は今、何を考えるべきなのか。中国との付き合い方、考え方について、整理してみたい。

米国による中国への輸出規制の中身

 ロシアがウクライナ侵攻を起こす前にさかのぼると、われわれにとって政治経済に関する最大の関心事項は、米国による中国への輸出規制だった。もちろんこの規制は現在も継続中で、特に携帯電話基地局で世界最大実績を誇るHuaweiに対して、第5世代移動通信(5G)関連技術や製品を供給しない、という政策が徹底されているのが現状である。

 もう少し具体的に言うと、Huaweiは4G基地局出荷で世界1位、4G端末(スマホ)出荷で世界2位という実績を誇っており、5G基地局でもトップシェアを取る可能性が高いとされていた。今後ますますデータ通信量が増えることが予想される中、5Gインフラ市場をHuaweiに牛耳られるのではないか、そして中国政府がHuawei製基地局をバックドアに悪用するのではないか、という米国政府の懸念が今回の5G規制の引き金になっている。

 一時期はソニー製のイメージセンサー、キオクシア製のNAND型フラッシュメモリなどもHuawei製5Gスマホに搭載される部品として規制対象になっていた。ただ、重要なのは5Gスマホや基地局の心臓部であるSoC(System on Chip)をどのように規制するかである。

SoCを規制するために

 5G対応のSoC製造には5nm/7nmクラスのプロセス技術が必要であり、その製造ラインにはEUV(極端紫外線)露光装置が不可欠である。Huaweiのスマホ用SoCは、同社の子会社であるHiSiliconが設計し、TSMCが製造している。ただし、TSMCはHuaweiグループに対して、5G対応SoCの製造は受託しない、という方針を貫いている。このクラスのプロセスでの量産実績はTSMCがSamsung ElectronicsやIntelを大きくリードしており、現時点ではEUVを量産で使いこなす唯一の半導体メーカー、といって差し支えないだろう(すでにEUVを量産ラインに導入しているSamsungには申し訳ないが、歩留り問題をクリアできていない点がTSMCとの大きな差に感じてしまう)。「そんなTSMCが米国政府の言いなりになる必要があるのかな」、「『ウチのビジネスに口を挟むな』くらい強気な態度でも良さそうなものだが、アリゾナへの誘致、補助金でのサポートと交換条件になっているかもしれないな」などと邪推もしており、結局のところ真相は把握できていない。

 米国政府はTSMCを牽制するだけでなく、中国内での最先端プロセス技術を持つSMICも規制対象企業(Entity List)に指定し、EUV露光装置の唯一のメーカーであるオランダのASMLに対してSMICへの出荷を行わないよう規制している。しかし正直に申し上げて、この規制がなくてもSMICがEUVを使いこなせるとは考えにくく「ここまでする必要があるのかな」というのが筆者の率直な感想でもある。

 SMICにおける最先端プロセスは現時点で14nmクラスであり、SamsungやIntelでさえ手を焼いているEUVを量産に活用するには、まだ長い時間が必要だろう。中国の半導体技術革新が極めて速いスピードで進んでいることは理解しているが、SMICであっても、EUVの活用には5年以上、あるいは10年単位の時間がかかるのではないだろうか。

 それよりも、Huaweiに対する5G規制をいつまで継続するのか、という点にも注意を払う必要がある。すでに述べたように、米国政府が警戒しているのはHuaweiの5Gインフラである。Huaweiが5G基地局を出荷できずにいる現在、NokiaあるいはEricssonといった基地局メーカーが世界中に5Gインフラを整えつつあるのだ。Huaweiが基地局シェアを大きく落としたことが確認できれば、この規制が解除される可能性は高いだろう。今後Huaweiが5Gスマホを何億台出荷しようと、米国政府にとって大した問題ではない。実際にQualcommやBroadcomなど、同社を重要顧客として商売していた米国系半導体メーカーは、Huaweiへの規制を一刻も早く解除してほしい、と願っているはずである。たとえ米国政府の方針を理解していても、米国そのものは決して一枚岩ではないのである。

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