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半導体業界における中国との付き合い方を「いま」考える重要性大山聡の業界スコープ(52)(2/2 ページ)

» 2022年04月12日 11時30分 公開
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米国も決して一枚岩ではない中で、日本は……

 さて、ここで日本政府はどのような立場かといえば、米国政府の方針に極めて従順であり、日系企業各社に対しても米国の規制に従うよう指導している。しかし米国政府の方針には明らかに「行き過ぎ」「やり過ぎ」の面があり、「こんなことまでおとなしく聞いてられるか!」と突っ込みたくなる内容を多分に含んでいる。ソニー製のイメージセンサー、キオクシア製のNANDフラッシュが一時規制の対象になっていたことはすでに述べたが、Huaweiの5G基地局を作らせないことが目的であることを考えると、こんな規制は馬鹿げているとしかいいようがない。そもそも5G対応SoCを入手できないHuaweiにしてみれば、5G基地局はもとより5Gスマホも作れないので、4Gスマホを作るしかない。このような状態で、Huawei向けにイメージセンサーやメモリのような汎用品の出荷を禁じて、いったい何の効果があるのか。この規制は単なる「商売の邪魔」でしかないのである。

 だからこそ、両社とも米国政府に対して再三にわたって輸出許可を申請していたと聞いている。日本政府はこうした申請を受けて、米国政府に働きかけるなど、ちゃんと日系企業をサポートしていたのだろうか。

 米国内でも、政府と企業の間でかなりヒートアップするような場面があったらしい(そして今でも続いていると思われる)が、中国企業および中国市場は、世界中の多くの企業にとって極めて重要な得意先のはずである。規制があるからといって「はい、そうですか」で済まされる問題ではない。

 そして中国側にしてみれば、米国とはにらみ合いを続ける一方で、日本とは仲良くしたい、協業できる道を探したい、という姿勢が中国政府にも中国企業にも見え隠れする。

多くのリスクも存在するが、真剣に考えるのは今だ

 例えば「中国製造2025」の中で重点項目に挙げている半導体に関して、2020年時点で15%程度に留まっている自給率を2025年までに70%まで引き上げたい、という政府目標がある。この達成はまず不可能だろう。元々これはかなりアグレッシブな目標であり、米国による規制がなかったとしても達成は厳しかったと思われるが、改善のための対策はいくつか考えられる。

 対策の1つとして、日本の企業内に埋もれている人材やノウハウの活用が挙げられるだろう。

 日系企業としても、タダで協力するのではなく、ライセンス供与とか製造委託とか、自社の負担を軽減させながら実績を挙げることを考えれば、双方にメリットのある協業案が出てくるはずである。幸いなことに、日系企業が抱える技術やノウハウの多くは、昨今の米国規制に抵触するような最先端のものではない。アナログICやパワー半導体でユニークな技術を持ちながら事業を拡張できない、資金不足で思い切った戦略を打ち出せない、という悩みを抱えた日系企業は意外に多く存在する。営業領域を日本国内から外に出られないまま停滞している半導体商社も少なくない。

 そうしたすべての企業にとって中国はバラ色だ、とまではいわないが、世界最大の半導体需要を抱える中国において人材やノウハウが不足しているのは事実である。自社ができることを中国でどのように活用できるか、中国から日本に秋波が送られている状況で、今検討しないでいつ検討するのか、という思いで筆者はこの原稿を書いているのである。

 もちろん、中国進出に関しては多くのリスクも存在する。軒を貸して母屋を取られる危険性もあるし、双方の価値観の違いから決裂、などという場合もあるだろう。冒頭に述べたように、世界中を敵に回しかねないロシアをサポートすることまで考えている国でもある。しかし、だからこそ、交渉時には中国側にもさまざまな負い目があるわけだ。それらも全部含めて、中国企業、中国市場との付き合い方を真剣に考えるのは今だ、とここでは主張させていただきたい。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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