今回は4番目のサブパート「5.4 利用可能な周波数帯域と許容電力レベル」と、5番目のサブパート「5.5 結論」の講演部分を説明していく。
半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」が昨年(2021年)12月11日〜15日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された。同年12月17日以降は、インターネットを通じてオンデマンドで録画済みの講演ビデオを視聴可能になった。
IEDMは12日に「ショートコース」と呼ぶ技術講座をプレイベントとして実施した。その1つである「Emerging Technologies for Low Power Edge Computing (低消費エッジコンピューティングに向けた将来技術)」を共通テーマとする6件の講演の中で、「Practical Implementation of Wireless Power Transfer(ワイヤレス電力伝送の実用的な実装)」が極めて興味深かった。講演者はオランダimec Holst Centreでシニアリサーチャー、オランダEindhoven University of TechnologyでフルプロフェッサーをつとめるHubregt J. Visser氏である。
そこで本講演の概要を本コラムの第347回から、シリーズでお届けしている。なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者のご理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
本シリーズの第8回から、マイクロ波を使った電力伝送の基礎理論に関する講演部分を紹介している。講演全体では、5番目のパート「5. 放射型ワイヤレス電力伝送の基礎」に相当する。このパートは5つのサブパート、「5.1 アンテナ」「5.2 フリスの伝達公式」「5.3 アンテナの整合」「5.4 利用可能な周波数帯域と許容電力レベル」「5.5 結論」に分かれる。
前回は3番目のサブパートである「5.3 アンテナの整合」を解説した。今回は4番目のサブパート「5.4 利用可能な周波数帯域と許容電力レベル」と、5番目のサブパート「5.5 結論」の講演部分を説明していく。
個人や法人などが免許を必要とせずに送受信可能なマイクロ波(電磁波)の周波数帯域と最大電力は、地域や国ごとに、あらかじめ決まっていることが多い。最もよく使われるのは、「ISM(Industrial, Scientific and Medical)帯」と呼ばれる2.45GHz帯などの周波数帯域だろう。
最大電力(許容電力)は、「EIRP(等価等方放射電力)」または「ERP(実効放射電力)」で定義することが多い。EIRP(Equivalent Isotropic Radiated Power、Effective Isotropic Radiated Power)は、アンテナからある方向に放射する電力を、等方性アンテナ(Isotropic antenna)が送信する電力で表記したもの。既に説明したように等方性アンテナ(参考記事:「マイクロ波による電力伝送技術の基礎理論(アンテナの解説)」)は仮想的な存在である。例えば利得がGTのアンテナが送信する電力をPTとすると、EIRPはGTとPTの積になる。
一方、ERP(Equivalent Radiated Power、Effective Radiated Power)は、アンテナが放射する電力を等方性アンテナではなく、半波長ダイポールアンテナの送信電力で表記したもの。EIRPに比べるとデシベル(dB)表記では2.14dB低い。ワット(W)表記ではEIRPを1.637で割った値となる。
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