京都大学中心とする研究グループは、強磁性体を含む極性超伝導多層膜において、外部磁場がない状態でも臨界電流の大きさが電流方向に依存することを発見し、無磁場下で超伝導ダイオード効果の方向を制御することに成功した。
京都大学化学研究所の成田秀樹特定助教や小野輝男教授らを中心とする研究グループは2022年7月、強磁性体を含む極性超伝導多層膜において、外部磁場がない状態でも臨界電流の大きさが電流方向に依存することを発見し、無磁場下で超伝導ダイオード効果の方向を制御することに成功したと発表した。
従来の半導体ダイオードは、整流器やAC-DCコンバーターなどで用いられている。ただ、低温時では電気抵抗が大きく、動作時のエネルギー損失や発熱が課題になっていた。超伝導体だと電気抵抗がゼロになるが、ダイオード効果を実現するためには、外部磁場を用いる必要があった。
研究グループは今回、空間反転対称性の破れた超伝導体として、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、Vおよび、タンタル(Ta)からなる多層膜をスパッタ法で形成した。実験では、この多層膜試料を細線形状に加工し、電流源と電圧計を用いて4端子電気抵抗の測定を行った。測定時には多層膜面内かつ電流と直交する方向に外部磁場を印加し、強磁性体であるCo磁気状態を変化させながら、電気抵抗の直流電流依存性を調べた。
この結果、この試料では超伝導と強磁性が共存。その上、Nb/V/Co/V/Ta多層膜の臨界電流は磁化と印加電流の方向によって異なり、磁化状態の正(+M)/負(−M)または、電流方向の正負を制御すれば、外部磁場を用いなくても、超伝導と常伝導の状態をスイッチングできることが実証された。今回観測した無磁場下における超伝導ダイオード効果について研究グループは、「多層膜積層方向の空間反転対称性の破れによる効果」とみている。
今回の成果は、京都大学化学研究所の成田秀樹特定助教や小野輝男教授らによる研究グループと、同研究所の島川祐一教授、菅大介准教授、同大学大学院理学研究科の柳瀬陽一教授、スイス連邦工科大学の石塚淳研究員(現在は新潟大学助教)、極東連邦大学のAlexey V.Ognev教授、Alexander S.Samardak教授らとの共同研究によるものである。
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