京都大学の研究グループは、熱輻射光源と太陽電池を一体化した熱光発電デバイスを開発した。試作したデバイスを用い、高温物体から生じる熱輻射で、黒体限界を超える密度の光電流を生成することに成功した。
京都大学工学部工学研究科の野田進教授と井上卓也助教、池田圭佑修士課程学生(研究当時)および、浅野卓准教授らの研究グループは2021年8月、熱輻射光源と太陽電池を一体化した熱光発電デバイスを開発したと発表した。試作したデバイスを用い、高温物体から生じる熱輻射で、黒体限界を超える密度の光電流を生成することに成功した。
物質を高温に加熱すると熱輻射が生じる。この熱輻射と太陽電池を組み合わせた「熱光発電」は、エネルギーを有効利用する発電方式の1つとして期待されている。ただ、熱光発電にはいくつかの課題もあった。
その1つが「黒体限界」である。熱輻射光源の内部で発生した熱輻射のうち、自由空間に取り出すことができるのはごく一部に限られるという。この結果、太陽電池で生成される電力密度は、熱輻射パワーを全て取り出す場合に比べ、1桁以上も小さくなる。
そこで研究グループは、黒体限界を超える密度の光電流を生成するための研究に取り組んだ。新たに開発した発電システムは、1100K以上という高温の熱輻射体と室温に保った太陽電池を、透明(高屈折率)基板を介して極めて短い距離まで近づける構造とした。
これによって、高温物体内部で発生した高密度な熱輻射を自由空間に取り出さず、太陽電池に直接取り込むことが可能になった。自由空間における黒体限界の制約を受けないため、太陽電池で生成される光電流密度は、従来方式に比べ大幅に増えることが分かった。
試作した発電デバイスは、シリコン熱輻射光源とシリコン透明基板が140nm未満の隙間を隔てて一体化されている。透明基板の裏側には、InGaAs太陽電池を設けた。これにより、透明基板側に引き出された熱輻射がそのまま太陽電池まで伝搬し、従来の限界を超える電流密度を生成することが可能になった。なお、光源部のみを1000K以上の高温に加熱できるよう、光源は幅10μmという細長い梁(はり)で支持し、熱が逃げるのをできる限り防いだ。
開発した新しい発電デバイスと従来方式の発電デバイスを試作し、光源をほぼ同じ温度に加熱した時に得られる太陽電池の電流電圧特性を測定した。これにより、新しい発電デバイスは従来方式の発電デバイスと比べ、同じ温度で5〜10倍の光電流密度が得られることを確認した。
さらに、光源の加熱温度を変化させながら、それぞれの電流密度を調べた。このデータから、新しい発電デバイスでは光源温度が1100K以上の場合、黒体限界を超える光電流密度(黒体限界の1.5倍)が得られていることが分かった。
なお、試作したデバイスは、その構造や光源の動作温度まで最適化していないという。数値計算結果によれば、これらを最適化することにより、35%以上のエネルギー変換効率を実現できる可能性があることも明らかになった。
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