フラッシュメモリの歴史年表で1994年を取り上げる。IBMが世界で初めてスマートフォンを開発した経緯を紹介する。
フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」の会場では最近、「Flash Memory Timeline」の名称でフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表を壁にパネルとして掲げていた。FMSの公式サイトからはPDF形式の年表をダウンロードできる(ダウンロードサイト)。
この年表は1952年〜2022年までの、フラッシュメモリと不揮発性メモリに関する主な出来事を記述している。本シリーズではこの歴史年表を参考に、主な出来事の概略を説明してきた。原文の年表は全て英文なので、これを和文に翻訳するとともに、参考となりそうな情報を追加した。また年表の全ての出来事を網羅しているわけではないので、ご了承されたい。なお文中の人物名は敬称略、所属や役職、企業名などは当時のものである。
前回は、一般用のコンパクトデジタルスチルカメラ(コンパクトデジカメあるいはコンデジ)がフラッシュメモリあるいは小型フラッシュメモリカードによって低価格化が進み、普及を始めた様子を述べた。時期は1993年〜1996年である。
今回は、世界で初めてのスマートフォン(ハンドヘルドPCと携帯電話を融合した小型情報通信端末)を取り上げる。IBMが開発し、1994年8月に米国の携帯電話キャリアBellSouth Cellular(以降はBellSouthと表記)が発売した「IBM Simon Personal Communicator」(「Simon」(サイモン)と略記することが少なくない)である。携帯電話システムは第1世代、すなわちアナログ携帯電話の時代だった。そしてインターネットは事実上、商用化されていなかった(インターネットの商業利用が許可されたのが1993年、Webブラウザ「Mosaic(モザイク)」が開発されたのも1993年である(参考記事:「MosaicからChromeまで――Webブラウザ戦争の来し方行く末」/ITmedia エンタープライズ)。
筆者が調べてみると、「Simon」の開発チームを率いたFrank Canovaの個人サイト「Simon history」が、「Simon」の開発に関する詳しい経緯を公開していた。このサイトによると、IBMのフロリダ州ボカラトン(Boca Raton)にあった先進テクノロジー(Advanced Technology)部門でFrank Canovaらによる少人数のチームで1992年に開発が始まった。IBMにとっては主要な開発テーマではなく、マイナーな存在である。
ところが試作機(開発コード名「Sweetspot」)を1992年11月にコンピュータ業界で最大の展示会「COMDEX」に出品すると、報道機関や業界関係者などの大きな注目を集めた。試作機のお披露目が大成功に終わったことから、IBMは製品の開発を決定する。製品開発には、試作機に強い興味を示した携帯電話キャリアのBellSouthが協力した。製品(開発コード名「Angler」)の製造には、三菱電機が選ばれた。三菱電機は当時、独自ブランド「DiamondTel」の携帯電話端末を開発、製造していた。
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