図3は2022年第3四半期(3Q)(A380よりも約3カ月遅れ)に発売されたIntel GPU「Arc A770(以下、A770)」の様子である。A770はA380がローエンド向けであったのに対してミドル向けGPUという位置付けになっている。
A380のXe-COREが8基だったのに対し、4倍の32基を搭載していて、接続されるGDDR6も3個から8個(6GBから16GB)と増えている。ボードサイズもそれに伴って増えていて、ほぼ2倍のサイズになっている。回路規模も大きいので発熱量も増える。そのためA770ボードの空冷ファンは2基備えている。ほぼ全てがA380の倍だ。しかしメインボードとの接続や出力端子は同じ。内部の演算性能がローエンドからミドルという機能アップとなっている。NVIDIAやAMDのGPUボードの構成と同じである。
A770はIntelから直接販売されており、台湾メーカー製ではなくIntelブランドとしてのA770を分解対象とした。Intel製のCPUと同じく手の込んだ梱包が成されており、また本体の分解も若干難易度の高いものであった。一般的なGPUはプラスネジだけで基板を取り出すことができ、見える部分からネジを外していけば、簡単に基板を取り出すことができるのだが、A770はLEDなどが多数組み込まれていて、あちこちがお互いをネジ留めする構造になっている。そのため基板を取り出すだけでも通常のGPUボードの3倍ほど手間がかかってしまった(つまりは、製造コストも高いということ)
図4は、A770のシリコン開封の様子である。ローエンドのA380に対してシリコン面積は2倍弱となっていて(Xe-CORE数やGDDR6のインタフェース数が増えているので)内部の演算器の領域が大幅に大きいものとなっている。
シリコン上の開発年号はA380が2021年、A770は2020年と、A380よりも1年前のものであることが明確になった。ミドル仕様のA770を先に開発し、カットダウンでA380を開発したものと思われる。電源設計、クロック設計、転送速度などシリコンが大きくなるほど難易度は高くなる。そのため難易度の高いものから開発を行うのが合理的だ。ミドル仕様が完成すれば、ローエンドは機能を削ることでおおむね完成する。NVIDIAやAMDなども同様の手順で製品をリリースしている。GPUではハイエンドを先行させ、その後ミドル仕様を投入する。IntelのGPUでは、開発はミドル仕様のA770が1年早い。しかし発売時期は逆転し、ローエンドのA380が2Q、A770が3Qとなっている。
表1はA380(ローエンド)とA770(ミドル)の競合品との比較および位置付けである。コア数や演算性能に関してはネット上に多くの情報があるので本報告では割愛した(ただし公式版有償のテカナリエレポートでは仕様比較表も掲載している)。弊社ではGPUに関してほぼ全シリコンを入手して開封し、シリコン面積を測っている。また顕微鏡やSEMなどを用いて製造プロセスを判定している。
表1では各社が発表するシリコン上の総トランジスタ数を用い、1mm2当たりの集積密度を算出した。各社、各仕様によって用いる製造プロセスが異なるので、1対1の比較にはなっていないが、各社ともにローエンドは演算器(最も微細化の効果が大きい部位)が小さく、微細化の効果を発揮しにくいインタフェース(GDDR6インタフェースやHDMI、PCI Express。巨大なバッファーなどがあるので集積密度は極めて低い)の比率が大きい。そのため、ミドル仕様に比べて、総じて集積密度は低くなってしまっている。
IntelのArcの場合、ローエンドのA380の方がミドル仕様のA770よりも約15%集積密度が低い。今後3nm、2nmへ移行した場合もしかりであろう。内部の演算器など微細化の効果が大きい部分の面積をより多く取れることが重要だ。内部が小さくインタフェースが大きいと、効率の悪いものになってしまう(いわゆる何をやっているか分からないチップ)。より大きな演算器シリコンを定義できる方が微細化効果を得やすいわけだ。
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