今回から、第2章「注目される市場と電子機器群」の本論に入る。はじめは第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」の概要を説明する。
電子情報技術産業協会(JEITA)が3年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2022年度版 実装ロードマップ」(書籍)を2022年7月に発行した。本コラムではロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、ロードマップの概要をシリーズで紹介している。前回は、第2章「注目される市場と電子機器群」から第2節(2.2)「電子機器群の分類と定義」の概要を報告した。
今回から、第2章「注目される市場と電子機器群」の本論に入る。始めは第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」の概要を説明する。「ヒューマンサイエンス」の定義は科学技術分野によって様々であることから、本ロードマップでは「ヒューマンサイエンス」を、「人間にかかわる諸事象を探究する諸科学の総称」と定義する。
この定義はかなり抽象的で、分かりやすいとは言いづらい。もう少し具体的に見ていく。本ロードマップでは、ヒューマンサイエンスの目的を大きく2つに分ける。1つは「ヒトの生命力を維持・増強する」こと。もう1つは「ヒトの能力を超越する」ことである。前者はさらに、「ヘルスケア(健康管理)」分野と「メディカル(医療)」分野に分かれる。後者はそのまま「人間拡張」分野となる。
各分野には具体的なテーマと、対象とする期間が存在する。「ヘルスケア」分野では「ウエアラブルデバイス」を扱う。対象とする期間は2020〜2025年である。「メディカル」分野では「手術支援ロボット」、「マイクロ流体デバイス」、「感染症とPCR検査、迅速検査」、「バイオセンサ」を取り上げた。対象期間はテーマによって異なるが、長くても2030年までの範囲となる。
「人間拡張」分野では「五感センシング」、「脳科学」、「遠隔操作」を扱う。対象期間は「五感センシング」が2030年までである。「脳科学」は2040年前後まで、「遠隔操作」は2050年までと、この2つはかなり長期にわたる。
ここからは、「ヒューマンサイエンス」領域の研究開発状況を概観する。Jisso技術ロードマップ専門委員会は、生物学や医学、生命科学などの論文データベース「PubMed(パブメド)」を利用して分野別に論文発行数/年の推移を調べた。1950〜2020年の70年間に、いずれの分野も論文数が増加している。
最近になって特に増加が著しいのは、「コロナウイルス(SARS/MERS/Covid)」だ。2000年代〜2010年代前半には数百件/年だったのが、ここ2年では数万件/年と約100倍に激増している。
その他の分野では、「エピゲノム・再生医療」、「液体精検(液体生検(Liquid Biopsy))」、「迅速検査(PoCT:Point of Care Testing)」、「薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)」に関連する論文の増加が目立つ。
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