Fixstars Amplifyは、量子コンピュータの利用のハードルをできるだけ下げる取り組みも継続して進めている。その一例が、オンラインデモやチュートリアルの提供だ。「ブラウザベースでサンプルコードを実行すれば、イジングマシンの動作を体験できるようになっている。顧客や学生からは、これによって一通りできるようになったとの声も聞く」(平岡氏)
Fixstars Amplifyのソリューションは、さまざまな分野で利用が拡大している。ユーザーの登録社/組織数は約400に上り、計算の累計実行回数は1300万回を超えるという。これについてFixstars AmplifyのCTO(最高技術責任者)である松田佳希氏は、数の大小というよりも「約400の企業や組織が、定常的に量子コンピュータを使用していることの現れ」だと語る。「イジングマシンを使用する上で、当社のプラットフォームがデファクトスタンダードになっていると自負している」(同氏)
松田氏は、いくつかの事例も紹介した。住友商事とベルメゾンロジスコは、物流梱包業務の担当者の割り当てにFixstars Amplifyのアニーリング技術を採用。これまで数時間かかっていた割り当て作業が15分程度に短縮された。
野村総合研究所は、Fixstars Amplifyのプラットフォームを活用することで、同社が運用するデータセンターの消費電力を最大10%削減することに成功したという。具体的には、データセンターの機器の負荷などを1時間ごとに計算し、電力消費量が最小となるよう、冷却器の運転計画を最適化した。
量子コンピュータの分野では、海外のスタートアップの存在も目立つ。そうした競争環境について松田氏は「量子コンピュータがまだアカデミックな分野で発展していることもあり、実際には研究活動が多いのではないか。われわれとしては、量子コンピュータを”実際に使える現場に持ってくる”ことを狙っている。そこが海外のスタートアップと異なる点ではないか」と語った。
量子コンピュータ事業の今後の見通しについては「量子コンピュータは“新しい道具”なので、得意、不得意を探索することが重要な段階に入っている。決してバラ色ではなくても、適したアプリケーションに使用すれば、明らかに従来のコンピュータを上回る結果が出ていることも事実だ。バズワードを超えて、“本当に使える道具”として定着すれば、われわれがそこに参画している意義はある」と平岡氏は語る。
「同時に、量子コンピュータのハードウェアの性能が上がり、現在のコンピュータでは太刀打ちできないレベルまで進化してほしいという願いもある。さまざまな研究開発の成果を見ていると、そうなる可能性もある。その時のために、量子コンピュータを使いこなす側として、(可能性に)賭けておきたい。まだ曖昧な領域だからこそ、技術で乗り切れる余地はある」(平岡氏)
松田氏は「量子というキーワードがどれほど注目されていても、実応用がなければいつか忘れ去られてしまうという危機感を持っている。当社のプラットフォーム『Fixstars Amplify』が、多くの業界にとって、量子コンピュータの使い道を探すための道具になればと思う」と付け加えた。
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