――「ムーアの法則」についてどう思われますか?
Moore氏 記事が掲載されてから20年間、なかなか口にすることができなかった言葉だったが、ようやく馴染むことができた。私の当初のメッセージは、「集積回路はいつか安価になっていく」ということだった。当時、集積回路は高価だったのだ。まさかそれが正確な予測になるとは思ってもいなかったが、私が想像していた以上に正確なものとなった。これは一種の自己成就予言となった。業界は、このままでは後れを取ってしまうと認識したのだ。
一方でこれは、奇妙なことでもある。技術(スケーリング)により、より高い性能をより低いコストで提供できるようになるので、後れを取るわけにはいかない。一方で、設備投資は自社で負担しなくてはならず、それが企業にとって前進の足かせになることもある。
――今後、市場をけん引していくものは何だとお考えでしょうか?
Moore氏 コンピューティングは先の長い市場ではないか。同市場に参入していない企業は多く、発展途上国では急成長している分野でもある。とはいえ、携帯電話機の世界出荷台数は既に6億〜7億台に達している。これは驚くべき台数だ。
Intelは、家庭向けに開発できる製品が多数存在すると判断し、デジタルホームにも注力し始めた。デジタルホームは期待が持てる分野だと思う。私の息子なら、すぐにでも飛びつきそうだ。妻は、家の中が電子機器だらけになることには抵抗があるようだが、これは世代的なものだろう。
――Noyce氏に対して、歴史は公平だったと思いますか? TIのJack Kilby氏は、(ICの発明の功績で)ノーベル賞を受賞しました。ICを発明した功績を分かち合うことは、フェアだったと思いますか?
Moore氏 Kilby氏とNoyceは、全く異なることを成し遂げた。Kilby氏は、実験室で半導体の部品を組み合わせ、回路を作るのに必要なことを全てできることを示した。ただ、それは実用的なものへの道筋を示すものではなかった。一方でNoyceは、技術を利用することで、回路が量産できることを示した。Noyceは未来への道筋を示したが、Kilby氏が先だった。この2人を評価することは、何よりも理にかなっている。
物事に明確なものはない。Jean Hoerni(Intelの初期の社員で、Noyce氏とともに集積回路を開発した)は、誰よりもプレーナ型プロセスに貢献したといえるが、彼は相応な評価が得られなかった。
――Intelの4代目CEOであるCraig Barrett氏は最近、米国の教育システムの問題についてよく話していますね。どう思われますか?
Moore氏 米国の教育システムは、幼稚園から高校まで、基本的に失敗している。大学は世界でも羨望の的のようだが、そこでもかつてのような外国人留学生の数は得られていない。しかも、以前は滞在していた留学生が、学位取得後は帰国してしまう傾向がある。
米国の競争力を低下させている要因はいくつもあり、われわれはそれに対処し続けなければならない。私は、ことし(2005年)の国家科学予算の削減を目の当たりにして、非常に心を痛めた。NSF(米国国立科学財団)の予算が削減されているのだ。技術におけるわれわれの未来を考えると、正しい方向性とはいえない。そうしたことは、政府が主導すべきものだ。産業界が基礎研究を行うことは、もうほとんどない。基礎研究は全て大学で行われていて、それらは全て政府の支援によるものだ。
私たちは素晴らしい50年間を過ごしてきた。だが次の50年は、これほど簡単にはいかないだろう。
【翻訳、編集:EE Times Japan】
※本記事は、米国EE Timesに掲載された記事を、翻訳して再掲載したものです(インタビューは2005年3月9日に実施)。
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