著名なハードウェアエンジニアであるJim Keller氏が率いるスタートアップTenstorrentが、本格的に日本に進出した。まずは自動車分野をターゲットに、AIアクセラレーターや、RISC-VプロセッサのIPを提供する。
AI(人工知能)アクセラレーターやRISC-Vプロセッサを手掛ける注目のスタートアップが、本格的に日本進出を果たした。2016年に設立されたTenstorrent(テンストレント)だ。カナダに本拠地を構えるが、活動のメインはほぼ米国である。シリーズCで2億3000万米ドルを調達し、従業員は約260人。CEO(最高経営責任者)は、AMDやApple、Intelなどでプロセッサの開発を手掛けてきた著名なハードウェアエンジニア、Jim Keller氏が務めている。
Tenstorrentは、プロセッサやアクセラレーターの設計会社で、AIアクセラレーターをチップ単体あるいはPCIeカードやサーバなどのシステムとして販売する他、RISC-Vプロセッサの設計IP(Intellectual Property)や、AIアクセラレーター/RISC-Vプロセッサを組み合わせたチップレットの設計IPを提供する。
2023年1月には、日本法人としてテンストレントジャパンが設立され、Graphcoreの日本法人でプレジデントを務めていた中野守氏が、代表取締役社長に就任した。
中野氏は「日本を第2の市場開拓の場所として位置付けている。今後は日本以外のアジアや欧州にも拠点を設立していく計画だ」と語る。「現在、RISC-Vへの注目が高まっている。組み込み分野だけでなくエンタープライズにもRISC-Vの市場が拡張しつつある中、日本でも当社のRISC-VプロセッサIPを提供していく」(同氏)。特に自動車をターゲットの一つとしていて、ADAS(先進運転支援システム)や車載インフォテインメント、ECU(電子制御ユニット)に向けて製品の展開を狙う。
TenstorrentのAIアクセラレーターのアーキテクチャは、「Tensix Core」が基本となる。メモリと演算用エンジン、通信用ネットワークエンジンおよび、それらを制御する小規模な5つのRISC-Vコアで構成されている。現在、このTensix Coreベースのプロセッサ「Grayskull」と「Wormhole」が製品として市場に投入されている。
Grayskullは、主に推論の実行を目的とし、PCIeカードやワークステーションのフォームファクターで提供されている。一方、Wormholeはサーバやクラウド向けとなっている。Tenstorrentは2023年後半から2024年にかけて、さらに2つのアクセラレーターを発表する計画だ。Wormholeの拡張版のような「Black Hole」と、高性能かつ小型を特長とするチップレット「Quasar(クエーサーのように発音)」である。Black Holeは6nm世代、Quasarは4nm世代の半導体製造プロセスを適用する予定となっている。2024年には、AIアクセラレーターとCPUを組み合わせ、大規模なAIモデルにも対応できるチップレットとして「Grendel」も開発する計画だ。
Tenstorrentはソフトウェアの整備も進めていて、ベアメタルプログラミングモデルの「TT Metal」もオープンにしている。
中野氏は「Tensix Coreにより、小規模のAIアクセラレーターから大規模のAIアクセラレーターまで、一つのアーキテクチャで対応できることが特長だ。例えば30Wや70Wクラスのアプリケーションから数メガワットのアプリケーションまで同じアーキクチャでサポートできる。Tensix Coreは、スパースモデリングや条件分岐などを含めたモデルを容易に処理できるので、より複雑でより大規模になるであろう将来のモデルにも対応しやすいという利点もある」と述べた。
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