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ソフトバンクが「先端技術研究所」を作った理由「研究」が評価されない

ソフトバンクは2022年4月、新しい技術を社会実装するための研究/開発を行う組織として、「ソフトバンク先端技術研究所」を設立した。先端技術研究所設立の背景と、担う役割について所長の湧川隆次氏に聞いた。

» 2023年05月12日 10時30分 公開
[半田翔希EE Times Japan]

 ソフトバンクは2022年4月、新しい技術を社会実装するための研究/開発組織として、「ソフトバンク先端技術研究所」(以下、先端研)を設立した。“事業会社”としての側面が強く、1986年の創業以来、研究開発専門の組織を設置していなかったソフトバンクが、なぜ先端技術研究所の設立に踏み切ったのか。設立の背景と役割について、ソフトバンク先端技術研究所 所長の湧川隆次氏に聞いた。

技術者が事業化を前提としない研究開発に挑戦する場

――先端研はどういった目的で設立されたのでしょうか。

ソフトバンク先端技術研究所 所長の湧川隆次氏 ソフトバンク先端技術研究所 所長の湧川隆次氏

湧川隆次氏 先端研は、社内(ソフトバンク)の技術者から出てくるアイデアに対して、技術者自身がトライ&エラーを繰り返しながら、研究のノウハウを蓄積していく場所として設立した。

 ソフトバンクは、事業会社の側面が強いため、正直、今までは事業化を前提としない研究開発を避けてきた。昨今、chatGPTなどの生成AI(人工知能)の発展により、既存のアイデアから発想を広げるだけであればすぐにできる時代になった。アイデアの中から何がヒットするのかが分かれば、そのアイデアに集中して取り組めばいい。しかし、実際は、何がヒットするのかを事前に知ることはできないため、事業会社として取り組むことは難しかった。

 先端研の技術者は、自分自身のアイデアを実際に研究することで、理屈では分からないリアルな問題にぶつかる。ソフトバンクは、先端研で蓄積した研究のノウハウを元に、将来的にどんな事業/技術に注力するべきかを探り、市場の状況も見ながら事業化していく。すぐに事業化できなかったとしても、ノウハウが蓄積されていれば、“その時”が来た時に、ソフトバンクがいいポジションで勝負できる。

――ノウハウがあると、他企業や研究機関との連携も話が早そうですね。

湧川氏 まさにその通りだ。日本では「自分たちで作る」ことを重んじる考えもあるが、ソフトバンクだけでできる研究開発には限界があると考えている。ソフトバンクは、積極的に企業や研究機関と協業し、お互いの強みを生かしていく戦略を取っている。共同研究をする中で、ソフトバンクでもその分野の研究ノウハウを持っていると、相手も同じ経験をしているので話が早い。

 例えば、ソフトバンクが主催した最先端技術を体感できる展示会「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」(2023年3月22〜23日)では、空モビリティ向けの超軽量リチウム金属電池の研究を展示した。次世代電池の研究において、ソフトバンクも最初は素人集団だった。しかし、次世代電池の研究を始めると、空モビリティの飛行時間をどうしたら伸ばせるのかなど、自分たちで研究することで初めて気が付ける細かな課題が分かってくる。

技術者の意見を尊重し、1人1人が考える組織

――先端研には何人が所属しているのでしょうか。

湧川氏 先端研には、100人以上のメンバーが他の業務や複数プロジェクトを兼務しながら所属している。研究所のWebサイト上では約30人の研究者しか紹介していないが、研究者以外にも、大学や企業との連携業務を担うメンバーや、法務など研究開発および事業化に必要なさまざまなメンバーがいる。繰り返しになるが、ソフトバンクは事業会社の側面が強いため、研究のための研究では評価されにくい。そのため、研究が進んだ場合の事業化まで見据えてメンバーを集めていることが特長だ。

――1つの研究開発プロジェクトは、どれくらいの期間でやっているのでしょうか。

湧川氏 明確な基準はないが、現場から出てくるアイデアは尊重し、半年〜1年やってみて(その後を)判断する方針だ。

 研究期間は状況によって変化するが、技術者の声には経験に裏打ちされた信頼性があると認識しているため、できるだけ意思を尊重したいと考えている。一方、技術者は、自分のしたい研究や興味のある研究にだけ目を向けてしまう傾向がある。先端研の技術者には、自身の研究だけでなく市場や社会の反応など周辺環境にも目を向けた上で、研究の意義を1人1人判断してもらいたい。議論を重ね、市場の動きやトレンドを見ながら、リソースをコントロールし、反応が良ければ事業化する。仮に、最長で3年間芽が出ないようだったら、一度プロジェクトの中止を検討する。

――5年後、10年後はどのような世界になっていると思いますか。

湧川氏 5年後、10年後の未来を語るのは難しいが、すごい世界になっていると思う。通信キャリアとしては、やはりネットワーク面で貢献していく。「5G(第5世代移動通信)」という言葉が広がり、一般消費者も、「通信が速くなる」「遅延がなくなる」など5Gに対するイメージは何となく持っていると思う。しかし、一般消費者が5Gの本来の性能を感じられるレベルの具体的なサービスとしてはまだ提供できていない。自動運転やロボットの遠隔操作など、5Gの特性を生かしたサービスが実現して、一般消費者が体感して初めて「5G」の意味が出てくる。ソフトバンクは、5G技術そのものはもちろん、それを生かすサービスを展開し、世の中に貢献する。

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