物質・材料研究機構(NIMS)は、ソフトバンクやオハラと共同で、リチウム空気電池の劣化反応機構を解明した。これに基づき、金属リチウム負極の劣化を抑えるための軽量な保護膜を導入し、サイクル寿命を大幅に向上させることに成功した。
物質・材料研究機構(NIMS)は2023年1月、ソフトバンクやオハラと共同で、リチウム空気電池の劣化反応機構を解明したと発表した。これに基づき、金属リチウム負極の劣化を抑えるための軽量な保護膜を導入し、サイクル寿命を大幅に向上させることに成功した。
NIMSは、科学技術振興機構(JST)の支援を受け、重量エネルギー密度が高いリチウム空気電池の基礎研究に取り組んできた。2018年にはソフトバンクと共同で「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」を設立し、リチウム空気電池の実用化研究を行ってきた。そして2021年に、重量エネルギー密度が500Wh/kg級のリチウム空気電池を開発した。ただ、開発品のサイクル寿命は10回以下であり、実用化に向けてはその回数が課題となっていた。
リチウム空気電池は、多孔性カーボン膜、セパレーター、金属リチウム箔(はく)を積層した構造となっている。放電反応を見ると、負極で金属リチウムが電解液に溶出し、正極で酸素と反応して、過酸化リチウムを析出。充電反応はその逆で、正極の過酸化リチウムが分解して酸素を放出し、負極では金属リチウムが析出される。
研究チームはこれまで試作してきたリチウム空気電池について、内部の複雑な化学反応を解析し、サイクル寿命が低くなる要因などを調べてきた。今回は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、充放電反応後の負極断面を観察した。
この結果、金属リチウム負極の厚みが当初の100μmから、約50μmに減少していることが分かった。リチウム空気電池セル内部のガスを分析したところ、正極における副反応(溶媒の分解反応など)に伴って発生する水や二酸化炭素が、負極側で反応している可能性が高いという。
研究チームはこれら副反応生成物が、金属リチウムの負極を劣化させる原因ではないかと推定。そこで、正極と負極の間に、保護膜として厚み90μmの固体電解質を導入したリチウム空気電池を新たに作製した。正極からの水や二酸化炭素といった副反応生成物が混じり合うことを抑制するためである。
保護膜を導入したリチウム空気電池を用い、充放電反応試験を行った。この結果、金属リチウムの負極の厚みは、初期の100μmをほぼ維持しており、劣化が抑えられていることが分かった。
ただ、保護膜として導入した厚み90μmの固体電解質は極めて重たい材料であり、リチウム空気電池の高い重量エネルギー密度を損なうという。そこで今回は、厚み6μmの固体電解質を開発し、負極の保護膜としてリチウム空気電池に搭載した。試作したリチウム空気電池の重量エネルギー密度は400Wh/kgを超えた。この値は従来のリチウムイオン電池の2倍以上である。しかも、20サイクル以上の安定した充放電反応が行われることも確認した。
研究チームは、今回開発した軽量保護膜を用いたリチウム空気電池に、開発中の新規材料群を採用していく。これによって、サイクル寿命を大幅に向上させたリチウム空気電池の早期実用化を目指す考えである。
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