前編に続き、「6G」を実現するために必要な要素技術を解説する。仮想化端末、メタサーフェス反射板、通信衛星などの技術を簡単に紹介していく。
ご注意
今回は前編の続きです。まず前編を読まれることを強く推奨します。
前回すなわち「次世代移動体通信「6G」を具現化する技術」の前編では、「6G」システムを実現するための重要だと考えられる6つの要素技術を挙げた。(a)「テラヘルツ波」技術、(b)「仮想化端末」技術、(c)「ユーザーセントリックアーキテクチャ」、(d)「メタサーフェス反射板」、(e)「通信衛星」、(f)「アナログRoF(Radio-over-Fiber)」技術、である。その中で最初の「(a)「テラヘルツ波」技術」だけは、前編(前回)で説明した。後編(今回)は、「(b)「仮想化端末」技術」以降の要素技術を簡単に解説していく。
前編およびロードマップ本体で記述した順序とは異なるが、始めは(c)「ユーザーセントリックアーキテクチャ」から説明していこう。KDDIのホワイトペーパー「Beyond 5G/6G」(p.41の記述)によると、「ユーザーセントリックアーキテクチャ」とは、個々のユーザーが必要とする品質のサービスを提供するアーキテクチャを指す。
「5G」までの移動体通信システムは、数多くの基地局を規則正しく配列することによって1つの基地局が提供するサービスの範囲(「セル」と呼ぶ)を連続してつなげる「セルラーアーキテクチャ」を採用してきた。このアーキテクチャでは、スマートフォンや携帯電話端末などの無線機が存在するセルの基地局を通じて音声やデータなどの信号を送受信する。無線機が移動して隣接するセルに入ると、信号を送受信する基地局が切り換わる。
これに対して「ユーザーセントリックアーキテクチャ」では、「セル」が存在しない。すなわち、無線機が信号を送受信する基地局は1つとは限らない。ユーザー(無線機)が要求するサービスの仕様に応じて複数の基地局が連携して無線機に対して通信サービスを提供する。
セルラーアーキテクチャには、セルの境界付近では隣接するセルの基地局による無線が干渉して雑音となる、基地局からの距離が離れると信号の減衰が大きくなる、といった欠点がある。ユーザーセントリックアーキテクチャでは複数の基地局が連携して無線機と信号をやりとりするので、上記のような問題が起きにくい。一方で基地局を高い密度で配置する必要がある、基地局間の連携をリアルタイムで高速に実行しなければならない、といった課題を抱える。
続いて「(d)「メタサーフェス反射板」」を説明しよう。「6G」システムでは、ミリ波〜サブテラヘルツ波などの波長が従来よりも短い無線を使う。波長が短くなると、電波の直進性が高まるとともに、電波が壁などに当たったときの回り込みが減少する。4G以前のシステムでは回り込みによって送受信が可能だったエリアでも、5G以降は送受信が困難になる場合が生じる。
この問題を緩和するために、表面や内部構造などの工夫によって反射角を制御可能な「メタサーフェス反射板」と呼ぶ人工反射板の活用が考えられている。「メタサーフェス反射板」は通常の鏡(ミラー)と異なり、表面構造の寸法設計によって特定の周波数領域に対する反射角を制御する。
スマートフォンや携帯電話端末などのユーザーは移動しているので、「メタサーフェス反射板」の反射角は端末の動きに対応して動的に変化することが望ましい。反射角を動的に制御できる反射板は「IRS(Intelligent Reflecting Surface)」「RIS(Reconfigurable Intelligent Surface)」などと呼ばれており、研究開発が進んでいる。
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