データ消費量が増加の一途をたどるデータセンターでは、次世代の技術として、光電融合技術への注目度が高まっている。
半導体業界は再び転換点を迎え、自動運転や大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)などの破壊的なAI(人工知能)アプリケーションによって促進されたルネサンスを享受している。OpenAIの「ChatGPT」のようなLLMは、“チャットボット”の高度化が会話機能の閾値を超えたと思われ、突如として日常生活に広まった。この技術をさまざまなサービスに統合できる可能性は無限とも思える。
このレベルのインテリジェンスには、データからの情報の分析と抽出、強力なデータストレージ、送信および処理機能が必要で、既存のデータセンターとエッジデバイスのコンピューティング能力に課題をもたらす。Finances Onlineが発表した2021年から2024年にかけてのデータ消費量予測によると、2021年の74ゼタバイト(ゼタバイト:1021バイト)から、2022年に94ゼタバイトに増加したという。また、2023年と2024年にはそれぞれ118ゼタバイトと149ゼタバイトに増加する見通しだという。この数字は驚異的で、現在のデータセンターのコンピューティング能力では追い付くのが困難になっている。
コンピューティング能力に対する増大する需要には、データセンターに展開されているディスクリートコンピューティングシステムや大規模な分散コンピューティングシステムでは対応できない。
確かに、エンジニアはデータを分析して活用するために、より複雑なモデルの開発を続け、最終的に生産性を向上させている。ただし、コンピューティング能力を向上させる従来の方法は、物理的原理によって制限され、従来のシングルチップのコンピューティング能力の向上は持続可能ではなくなっている。IT市場ではさらなるイノベーションが急務であり、半導体業界にとってはチャンスとなっている。
従来のコンピューティングチップの性能向上はボトルネックに直面している。約60年前に半導体産業が始まって以来、コンピューティング能力の進歩は、ムーアの法則(18カ月ごとにトランジスタ密度が2倍になるという予測)とデナードスケーリング(MOSFETを小さくすると高速かつ低消費電力になるという物理法則)によって説明されている。
この2つの組み合わせによって、チップは一定のエネルギーと面積消費を維持しながら、コンピューティング能力を継続的に向上させることができた。だが、チップの製造プロセスが5nm、3nmと進むにつれて、トランジスタ密度は物理的な限界に近づいており、ムーアの法則は減速している。また、デナードスケーリングが2004年頃に終了した結果、トランジスタ密度の向上に伴って電力供給と放熱が課題となる“パワーウォール”が発生した。先進プロセスでのテープアウトと設計にはコストが掛かり、“コストウォール”が発生する。従来のシングルチップのコンピューティング能力の向上は持続可能ではない。
もちろん、コンピューティング能力の向上とより有効な活用に向けた取り組みは重ねられてきた。現在のボトルネックを打破し、データセンターの課題を克服するには、基盤技術の革新が必要である。
そして今、次世代データセンターの進化に向けた、大規模な光電融合技術に基づくアプローチが登場した。従来のデジタル回路に代わる大規模なオプトエレクトロニクス統合が実現し、シリコンフォトニクスに基づく情報処理と相互接続機能が導入される。
シリコンフォトニクス技術を統合した光電融合の“ハイブリッドデータセンター”は、光コンピューティング、オンチップおよびチップ間光ネットワーク、その他の技術を組み合わせ、シングルノードのコンピューティングパワーそのものを向上させて(スケールアップ)、大規模分散コンピューティングの効率を向上させる(スケールアウト)。
ムーアの法則とデナードスケーリングが継続したとしても、コンピューティングパワーの指数関数的な成長は、個別のコンピューティングシステムでは対応することが難しい。コンピューティング需要を満たすべくリソースの消費が増大するので、大規模な分散コンピューティングシステムをデータセンターに導入する必要があるだろう。
シリコンフォトニクスコンピューティングは、ムーアの法則を超える計算能力向上の道を提供できる可能性がある。ウエハーレベルのオンチップ光ネットワークにより、コンピューティングパラダイムが従来の電気チップやメモリチップと効果的に連携し、単一ノードでの計算能力を向上することができるからだ。
シリコンフォトニクスコンピューティングでは、コンポーネントからアプリケーションソフトウェア開発まで、革新が必要とされる。だがこの技術は、ゼタバイトからヨタバイト(1024バイト)、さらにその先まで、データセンターが抱える課題を解決する一つのソリューションとなるだろう。
※筆者のMaurice Steinman氏は、Lightelligenceのエンジニアリング担当バイスプレジデントを務める。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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