京都大学と広島大学の研究グループは、イッテルビウム化合物「YbCuS2」の非整合反強磁性秩序相に、電気的中性な準粒子が存在していることを発見した。次世代量子コンピュータや省エネルギーメモリデバイスなどへの応用が期待できるという。
京都大学と広島大学の研究グループは2023年7月、イッテルビウム化合物「YbCuS2」の非整合反強磁性秩序相に、電気的中性な準粒子が存在していることを発見したと発表した。次世代量子コンピュータや省エネルギーメモリデバイスなどへの応用が期待できるという。
フラストレーションをもつ磁性体(フラストレート磁性体)では、通常の磁性体で知られていない秩序状態や準粒子が発現することがあるといわれている。特に最近は、f電子を持つ希土類化合物における研究が進んでいる。f電子に由来する強いスピン軌道相互作用や結晶場効果が存在するためだ。
こうした中で研究グループは、希土類のイッテルビウム原子(Yb)がジグザグ鎖を形成する磁性半導体「YbCuS2」に着目した。ゼロ磁場の0.95Kにおける相転移が特異な磁気相図を示すのは、希土類ジグザグ鎖によるフラストレーションの効果だといわれている。しかし、その相転移の電子状態については十分に解明されていなかった。
研究グループは今回、銅(Cu)核の核四重極共鳴(NQR)測定および比熱測定により、YbCuS2のゼロ磁場相転移の電子状態について調べた。この結果、2つのことが分かったという。
1つは、内部磁場による「NQR信号の分裂」と「核スピン-格子緩和率(1/T1)」の急激な減少により、0.95Kでの相転移が「反強磁性転移」であること。また、NQRスペクトルを解析したところ、秩序状態の磁気モーメントが、通常に比べ約10分の1と小さい特異な「非整合反強磁性状態」であることが分かった。
もう1つは、1/T1が0.5K以下で、温度の一次に比例する振舞いとなることである。さらに、断熱消磁冷凍機を用いて0.08Kまでの極低温領域における比熱測定を行ったところ、半導体では「ゼロ」となるはずの電子比熱係数が有限であることも分かった。
研究グループが観測したこれらの特異な物性は、YbCuS2の非整合反強磁性秩序相に中性準粒子が存在していることを示すものだという。
今回の研究成果は、京都大学大学院理学研究科の堀文哉博士課程学生、金城克樹博士課程学生(現在は東北大学多元物質科学研究所助教)、北川俊作同助教、石田憲二同教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の水谷宗一郎修士課程学生(研究当時)、山本理香子博士課程学生(現在は同博士研究員)、大曲雄大修士課程学生(研究当時)、鬼丸孝博同教授らによるものである。
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